研究課題
これまでの研究結果から、磁気嵐の主相時において、太陽風磁場(IMF)が南向きに伴って強められた朝夕方向の対流電場が極域電離圏から磁気赤道域へ伝播し、その電場が東向きの赤道ジェット電流を強化することが知られている。一方、IMFの北転に伴って急激に対流電場が弱められることで、内部磁気圏に発達した非対称環電流に接続する領域2型の電流系の作る遮蔽電場が相対的に強くなり、赤道域で東向きの赤道ジェット電流を弱めることがわかっている。そして、この回復期には、同時に磁気嵐時における極域の熱圏大気加熱を原因とした熱圏風が駆動され、それが極域から赤道域に吹くことによって電離大気と中性大気との相互作用によって領域2型の電流系とは別の電流系が発達する。しかしながら、中緯度を含めたグローバルな地磁気観測データ解析が十分に行われておらず、また、磁気嵐時における熱圏大気変動の実態も観測的に実証されていないため、赤道域の磁場変動に関して両者の効果がどの程度であるかの切り分けができていない。 そこで、本研究では、磁気嵐時における高緯度から磁気赤道に至るまでのグローバルな磁場変動の解析を2002年5月23日に発生した磁気嵐イベントに対して行った。その結果、磁気嵐の主相時に置いて、極冠域から中緯度領域にかけて2セル型の電離圏対流が作る電流系が支配的となり、昼間側の赤道域では、東向きのジェット電流が強められていた。一方、磁気嵐の回復期初期において、極冠域では、4セル型の対流パターンを、中緯度域では、領域2型の電流系の作る対流パターンを示した。その時、昼間側の赤道ジェット電流は、その電流系の作る電場によって弱められていた。その後、回復期後期において、領域2型の電流系の作る対流パターンは消失し、赤道域-中緯度を時計周りの方向に流れる反Sq場の電流系が卓越していることがわかった。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の平成23年度での研究実施計画では、磁気嵐時における高緯度から磁気赤道に至るまでのグローバルな磁場変動の事例解析を行うことであったが、大学間連携プロジェクトの進行がよく、データ解析環境がより一層充実となり、短期間にデータの検索や収集が容易にできるようになった。そのため、グローバルな地磁気データ解析が順調に進み、複数の磁気嵐イベントの統計解析まで行うことが可能となった。その結果、磁気嵐を駆動する太陽風擾乱の性質(CMEまたはCIR起源)によって、磁気赤道における地磁気変動の仕方に違いが見られることを統計的に示すことができた。 一方、磁気嵐時の電離圏擾乱ダイナモの起源となる中間圏・熱圏風の変動が高緯度を起源とすることを示すために、高緯度と赤道との間を結ぶ中緯度と低緯度に位置した稚内と山川のMFレーダーで観測された風速データをNICTから入手することができた。これによって、両極から赤道までの磁気嵐におけるグローバルな中間圏・下部熱圏の中性風変動を解析する環境が整うまでに至った。 したがって、これらは、平成24年度に行う計画の一部をなしており、当初の計画以上に本研究課題は進んでいるといえる。
次年度以降は、昨年度に得られた結果を拡張するために、長期のデータセットを用いて、これまでよりも多くの磁気嵐イベントについて解析を行い、磁気嵐の主相と回復相におけるグローバルな地磁気変動の統計的描像を確立する。この統計解析では、少なくとも磁気嵐の回復相に出現する赤道域の西向きジェット電流の起源に関して領域2型沿磁力線電流系のものと電離圏擾乱ダイナモによる成分との分離を試みることを考案している。そして、両者の時間スケールを明らかにすることを目標とする。 また、磁気嵐時の電離圏擾乱ダイナモの起源となる中間圏・熱圏風の変動の時間・空間変動を捉えるために、高緯度から赤道域に位置した複数の流星レーダー(スバルバール、コトタバン、ビアク)、MFレーダー(昭和基地、ロゼラート基地、アンデネス、パムンプク、ポンティアナ、山川、稚内)の風速データの解析を行う。 さらに、本研究課題の中間報告として、磁気嵐時におけるグローバルな地磁気変動についての事例解析と統計解析の結果を述べた2つの学術論文にまとめ、結果を公表する予定である。
次年度は、本研究課題の中間報告として、磁気嵐時におけるグローバルな地磁気変動についての事例解析と統計解析の結果を公表していくため、日本国内で行われる学会や研究集会(日本地球惑星連合大会2012:開催地=千葉幕張、地球電磁気・惑星圏学会:開催地=北海道札幌など)、及び国際会議(米国地球物理学連合学会など)に参加するための予稿・参加登録料や旅費について本研究費が使用される予定である。また、これらの研究成果を学術雑誌論文にまとめるため、それに関わる英語校閲費や論文出版費用も本研究費でまかなうことを予定している。 また、これまでよりも多量のデータを解析する環境の整備も順次行っていくため、物品費として、データ記憶媒体(ハードディスク、DVDなどのメディア)、データ解析ルーチンの維持費(IDLライセンス使用料)等にも使用される。
すべて 2012 2011 その他
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件) 学会発表 (17件) 備考 (1件)
Journal of Geophysical Research
巻: VOL116 ページ: -
10.1029/2011JA016631
IAGA Special Sopron Book Series
巻: VOL2 ページ: 443-453
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第3回データ工学と情報マネジメントに関するフォーラム論文集
巻: 3巻 ページ: -
宇宙科学情報解析論文誌
巻: 1巻 ページ: 印刷中
http://www.iugonet.org/pub.html