研究課題
これまでの観測・理論・シミュレーション研究から、磁気嵐の主相時に、太陽風磁場(IMF)の南転に伴って強化された対流電場が発達した領域1型沿磁力線電流と共に極域電離圏に持ち込まれ、それが磁気赤道域へ伝播することで東向き赤道ジェット電流を強化することが明らかにされている。一方、IMFの北転に伴って急激に対流電場が弱められることで、内部磁気圏に発達した非対称環電流に接続する領域2型の電流系の作る遮蔽電場が相対的に強くなり、赤道域で東向きジェット電流を弱めることが近年の研究からわかってきた。また、この回復期において、磁気嵐時に極域熱圏に持ち込まれた電磁エネルギーによる大気加熱を原因とした熱圏風が駆動する電離圏擾乱ダイナモに伴う領域2型の電流系とは異なる電流系が発達する。しかし、中緯度を含めたグローバルな地磁気観測データ解析が十分に行われておらず、また、磁気嵐時における熱圏大気変動の実態も観測的に実証されていないため、赤道域の磁場変動に関して両者の効果がどの程度であるかの切り分けができていない。本研究では、磁気嵐時における高緯度から磁気赤道に至るまでの全球地磁気観測点(220点)のデータを用いて、2002年5月の1ヶ月間に発生した5例の磁気嵐イベントについて解析を行った。その結果、磁気嵐の主相時に置いて、極冠域から中緯度領域にかけて2セル型の電離圏対流が作る電流系が支配的となり、昼間側の赤道域では、東向きジェット電流が強められていた。一方、磁気嵐の回復期初期に、極冠域で、4セル型の対流パターンを、中緯度域で、領域2型電流系の対流パターンを示した。その時、昼間側の赤道ジェット電流は、その電流系の作る電場によって弱められていた。その後、回復期後期において、領域2型の電流系の作る対流パターンは消失し、赤道域-中緯度を時計周りの方向に流れる反Sq場の電流系が卓越することが判明した。
2: おおむね順調に進展している
東北大、極地研、名大、京大、および九大の5機関7組織が国際協力の下でグローバルに展開している地磁気、大気レーダーを始めとする地上観測データを一元的に取り扱うことができるデータ解析システムの開発が大学間連携プロジェクト(IUGONET)において行われている。当初の予定通り、上記の観測データの再整備、およびそれらを解析する環境基盤が拡充し、短期間にデータの検索や収集が可能になった。こうした背景の下で、平成24年度の研究では、これらの研究インフラを活用することによって、赤道域の流星レーダーや中波(MF)レーダーデータ、中緯度に位置するMUレーダーの流星観測や中間圏標準観測データ、および、両極域のMFレーダーデータの解析を行い、磁気嵐時に発生した電離圏擾乱ダイナモがどれくらいの時間と空間スケールを経て、極域から赤道域へ伝播していくかについて明らかにすることができた。その結果、磁気嵐の主相時においてまず、両極域で高度80‐100kmにおける西向きの風速が強められ、その約1日後に赤道域で同様の風速変動がみられた。また、西向きの風速が強められる期間は、1-2日程度であった。一方、上記の風速変動と地磁気変動の対応関係を見るために、磁気嵐時における両極域から赤道に至るまでのグローバルな地磁気変動から導き出される電離層等価電流ベクトルを表示する解析・可視化ツールを整備した。その可視化ツールを用いて磁気嵐時のグローバルな電離層電流パターンを解析した結果、磁気嵐の主相時において領域1型の電流系が発達するとともに昼間側の赤道域では東向きのジェット電流が増加していた。また、磁気嵐の回復期の初期段階では、極冠域と中緯度域において領域1型の電流系とは逆センスの電流系が現れ、昼間側赤道域で西向きジェット電流が強められることが明らかになった。今後は、これらの地磁気変動と風速変動との比較解析を行う予定である。
次年度以降は、昨年度に得られた結果を拡張するために、大学間連携プロジェクト(IUGONET)によって再整備された長期にわたる超高層大気観測データ、および統合解析ツールを駆使して、これまでよりも多くの磁気嵐イベントの解析を行い、磁気嵐の主相と回復相における両極域から赤道に至るグローバルな電離層電流パターンの統計的描像を確立する。この統計解析では、磁気嵐の回復相に出現する赤道域の西向きジェット電流の起源に関して領域2型沿磁力線電流系のものと電離圏擾乱ダイナモによる成分との分離することを考案している。そして、得られた結果を基にこれら2つのダイナモ機構が維持する時間スケールを明らかにすることを目標とする。また、磁気嵐時における電離圏擾乱ダイナモの起源となる中間圏・熱圏風の変動の時間・空間変動を捉えるために、高緯度から赤道域に位置した複数の流星レーダー(スバルバール、コトタバン、ビアク)、MFレーダー(昭和基地、ロゼラート基地、アンデネス、パムンプク、ポンティアナ、山川、稚内)の風速データの解析を行う。ここでは、IUGONETプロジェクトで開発された異なる時系列データの相互相関解析やスペクトル解析(ヒルベルト変換、S変換)を行うことによって、12時間、24時間の潮汐波動や長期の大気波動の振幅や位相が磁気嵐の発達・衰退に伴ってどのような変化を示すかについて調査する。さらに、本研究課題の中間報告として、磁気嵐時におけるグローバルな地磁気変動についての事例解析と統計解析の結果を述べた2つの学術論文にまとめ、結果を公表する予定であるが、そのうち1本は現在執筆中の段階にある。
次年度は、磁気嵐の主相と回復相における両極域から赤道に至るグローバルな電離層電流パターンの統計的描像、および熱圏下部・中間圏における風速変動の特徴に関する解析結果を公表していくため、以下の国内学会・シンポジウム、および国際学会に参加するための予稿・参加登録料や旅費は本研究費から支出される予定である。〇地球電磁気・惑星圏学会、開催地:高知大学 (高知県)、日時:2013年11月2~5日〇極域科学シンポジウム、開催地:国立極地研究所 (東京都)、日時:未定〇米国地球物理学連合学会(AGU)、開催地:米国カルフォルニア州サンフランシスコ、日時:2013年12月9~13日これらの研究成果を学術雑誌論文にまとめるため、それに関わる英語校閲費や論文出版費用も本研究費でまかなうことを予定している。また、これまでよりも多量のデータを解析する環境の整備も順次行っていくため、物品費として、データ記憶媒体(ハードディスク、DVDなどのメディア)、データ解析ルーチンの維持費(IDLライセンス使用料)等にも使用する計画である。
すべて 2013 2012 その他
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件) 学会発表 (16件) 備考 (2件)
Data Science Journal
巻: 12 ページ: WDS179-WDS184
10.2481/dsj.WDS-030
宇宙科学情報解析論文誌
巻: 2 ページ: 印刷中
Journal of Geophysical Research
巻: 117 ページ: -
doi:10.1029/2012JA017566
doi:10.1029/2012JA018006
doi:10.1029/2012JA018093
doi:10.1029/2012JA017900
10.1029/2012JA017669
http://www.iugonet.org/publist.html
http://kyouindb.iimc.kyoto-u.ac.jp/j/iU3nL