本研究は、太陽風3次元磁気流体シミュレーションモデルへ惑星間シンチレーション(IPS)観測データを融合する手法を新たに確立した。太陽風観測結果をシミュレーションに組み込むデータ同化手法は、観測を反映した擾乱構造やその伝搬をシミュレーション空間内に再現して調査することを可能にし、惑星位置における太陽風予測精度向上への貢献も期待される。本研究では、流源関数モデルを可変としてデータ同化する手法を提案した。流源関数は、内側境界において磁場と太陽風速度・密度・温度を関連付ける関係式であり、太陽近傍の加速・加熱過程を反映するものと考えられる。これまで統計的に導出された経験モデルが太陽風モデルで用いられてきたが、この関数から得られる太陽風密度を過大評価していることが近年の観測から示唆されている。 太陽風3次元磁気流体シミュレーションモデルによって、太陽半径の50倍の位置から地球近傍までの太陽風伝搬を解く。データ同化手法としてアンサンブルカルマンフィルターを用いた。IPS観測データは、電波源と観測者(地球位置)を結ぶ視線沿いに太陽風速度を重みづけ積算したものに対応する。このジオメトリ効果を考慮して、観測ジオメトリとシミュレーション空間を対応付ける変換行列を導出した。 データ同化法の評価(双子実験)を行い、流源関数の係数および太陽風変動が、IPS観測データのモデルへのデータ同化によって十分同定できることが示された。これをもとに、実データへ適用した。1998年9月-12月の期間について、データ同化した計算結果は、地球位置における数10日スケールの太陽風変動構造をよく再現することが示された。 今後の課題として、i)長期のさまざまな期間および複数の観測データへ適用し、ii)惑星位置での太陽風予測変動を行うこと、iii)用いる流源関数の検討、が挙げられる。
|