研究課題/領域番号 |
23740375
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研究機関 | 独立行政法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
西野 真木 独立行政法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 開発員 (50466794)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 月プラズマ環境 / 磁気異常 / 太陽風 / 太陽風・月相互作用 / SELENE |
研究概要 |
今年度は、月周回衛星SELENEによる観測データを用い、太陽風と月の地殻起源磁場(磁気異常)の相互作用のうち、以下のことを明らかにした。まず、高度100kmでの観測データについて、磁気異常によるイオン反射の全球マップを作成し、特に反射率の高い領域を解析の対象として選定した。その結果、ある特定の磁気異常については、(1) 太陽風と磁気異常の相互作用の結果として、条件によっては高度100kmであっても太陽風磁場のpile-upが起きる。特に太陽天頂角の大きい領域で顕著である。(2) その際、太陽風磁場の強さに加えて、磁場の向きが重要な要素となる。(3) この磁場増大は大規模な太陽風減速を伴うことがある。ことを明らかにした。特に(2)の理由を探るため、太陽風磁場と地殻起源磁場の向きを比較した。その際に、SELENE搭載磁力計データから作成した高度100kmおよび高度300kmの磁気異常モデルを使用した。その結果、高度300kmの磁場モデルを用いると、観測データで磁場が極大となる地点では太陽風磁場と地殻起源磁場が平行成分を持つことが判った。逆に、磁場が反平行なときには磁場の増大率が小さいことを統計的に示した。このことは太陽風磁場と磁気異常との間で磁気リコネクションが起きている可能性を示唆する。また、高度100kmの磁場モデルでは良い相関が見られなかった。このことは、太陽風動圧によって磁気異常が圧縮されるために、より高い高度の(長波長の)月磁場成分が太陽風磁場に応答しやすいものと考えられる。ところが、別の磁気異常については、必ずしも磁場の向きとの相関が明らかでないケースがあった。このことは、磁場の増大には上述の条件に加えて別の要素があることを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
高度100kmのデータを用いた解析により、磁気異常の上空で発生する磁場増大が太陽風磁場の大きさだけでなくその向きにも依存することが明らかになった。これは当初予想していなかったことであるが、物理的に非常に重要であると考えたため、丁寧に解析をおこなった。そのため、今年度(23年度)の初めに想定していた低高度データの解析は年度内には終了していない。また、電子データのうち光電子の除去が課題となっているほか、波動データの解析も当初の予定より遅れている。これらの解析は次年度(24年度)前半に集中的に実施することとする。
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今後の研究の推進方策 |
次年度(24年度)の前半に、今年度に終えなかった低高度データの解析と波動データの解析を実施する。特に、高度20km付近の観測データについて、(1) 高度100kmで磁場増大が起きる条件による場合分け(2) 太陽風磁場の向きによる場合分け(3) 太陽天頂角による場合分けを行う。また、初期的な解析から、高度20kmでの反射イオンの分布は単一のビームではないことが判明している。このため、単純なモーメント計算による温度ではなく、ビーム毎に分けて温度を求めることを予定している。波動データは、初期的な解析では、衛星の地点での磁場が地殻起源磁場に接続している際にBEN(広帯域静電ノイズ)が観測される傾向があることから、BENの有無と電子分布関数を比較することで、その発生メカニズムを推定したい。次年度の後半には、神戸大グループによるシミュレーション結果を援用しながら、観測結果を正しく記述できるモデルを構築し、最終的なまとめをおこなう。なお、それでも年度内に課題を終えない場合には、研究期間の延長(2年間から3年間へ)を申請する可能性がある。
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次年度の研究費の使用計画 |
最も金額を占めるのは成果発表のための旅費である。論文投稿料も30万円程度を使用する予定である。他に、観測データに加えて大量のシミュレーション結果を格納するためのハードディスクを購入する。
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