研究課題/領域番号 |
23740375
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研究機関 | 独立行政法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
西野 真木 独立行政法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 開発員 (50466794)
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キーワード | 月プラズマ環境 / 磁気異常 / 太陽風 / 太陽風・月相互作用 / SELENE |
研究概要 |
今年度は、月周回衛星SELENEによる観測データを用い、太陽風と月の地殻起源磁場(磁気異常)の相互作用のうち、以下のことを明らかにした。 まず、低高度(25 km)で磁気異常によるイオン反射が顕著である領域を解析対象として抽出し、太陽天頂角の異なる軌道データを用いて解析をおこなった。その結果、衛星高度での反射プロトンの向きは、反射地点の太陽天頂角に依存することが分かった。すなわち、(1) 太陽天頂角が小さい場合(30度以下)には、太陽方向(X方向)の速度を主成分とする反射プロトンが存在する。(2) 太陽天頂角が中間の値の場合(30度から50度程度)には、太陽方向成分の速度を持つものの、垂直方向の速度(VyやVz)が支配的となる。(3) 太陽天頂角が大きい場合(50度以上)には、反太陽方向の速度を持つことが多く、垂直方向の速度が支配的となる。以上のように分類が可能であることを示した。過去に行われた他衛星データによる研究では太陽方向への反射(reflection)ではなく横方向への逸れ(deflection)が報告されてはいたが、実際に太陽方向へさかのぼる反射プロトンが存在することを示したのは本研究が初めてである。 また、反射イオンは単純な1つのビームだけでなく、互いに異なる方向を向いた複数のビームからなることがあり、衛星の下方にある複数の磁気異常帯で反射された太陽風プロトンを観測していることが分かった。後者の場合、それぞれのビームのエネルギーも異なっていることが多く、衛星下方の電場構造を反映しているものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
23年度に月面反射プロトンの全球図を作成し、その成果をもとに磁気異常でのプロトンに着目した解析を行うとともに国際会議にて発表する予定であった。しかし、プロトンのデータの較正作業に予想以上の時間を要することが判明したため、当初の研究計画を変更し、23年度に高い高度での磁場データを解析した。この結果は24年度に学術誌に投稿し受理された。 24年度後半から上記のデータ較正作業をしながら低高度でのプロトンと磁場のデータ解析を進めている。また、神戸大学側で粒子シミュレーションを23年度内に開始できず、24年度後半になってから安定した計算を実施できるようになったため、観測データとシミュレーションの比較研究が当初予定より遅れている。以上の理由により、実施状況が当初計画よりやや遅れており、研究期間を2年間から3年間に延長した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度(25年度)の前半に、今年度の成果を論文にまとめるとともに、今年度に終えなかった低高度データの解析と波動データの解析を実施する。特に、高度20km付近の観測データについて、(1) 太陽天頂角による場合分け、だけでなく、(2) 高度100kmで磁場増大が起きる条件による場合分け、(3) 太陽風磁場の向きによる場合分けを行う。また、今年度実施したデータ解析により、高度20kmでの反射イオンの分布は単一のビームではないことが判明している。このため、単純なモーメント計算による温度ではなく、ビーム毎に分けて温度を求めることを予定している。波動データは、初期的な解析では、衛星の地点での磁場が地殻起源磁場に接続している際にBEN(広帯域静電ノイズ)が観測される傾向があることから、BENの有無と電子分布関数を比較することで、その発生メカニズムを推定したい。 次年度の後半には、神戸大グループによるシミュレーション結果を援用しながら、観測結果を正しく記述できるモデルを構築し、最終的なまとめをおこなう。
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次年度の研究費の使用計画 |
最も金額を占めるのは打合せおよび成果発表のための旅費である。 他に、観測データに加えて大量のシミュレーション結果を格納するためのハードディスクの購入を予定している。
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