研究課題
平成24年度は,三畳紀の地球に付加した宇宙塵を回収するために,大分県津久見市江ノ浦地域およびカナダブリティッシュコロンビア州ウィリストン湖周辺の遠洋性チャート・石灰岩について試料採取を行った.採取した試料は粉砕後に磁性分離し,磁性成分のうち溶融宇宙塵と考えられる球状のものをマニピュレーターを用いて実体顕微鏡下で拾い出した.また本年度はこれまでのチャートを対象とした宇宙塵分離手法に加えて,石灰岩を酢酸で溶解して宇宙塵を回収する方法の確立につとめた.磁性分離によりチャート試料から取り出した溶融宇宙塵候補は,エネルギー分散型X線分析装置付きの走査型電子顕微鏡(SEM-EDS)を用いて定性元素分析および化学組成マッピング分析を行った.また大分県津久見市から回収された溶融宇宙塵については,エポキシ樹脂で埋め込み,断面の研磨後にX線マイクロアナライザー(EPMA)で化学組成分析およびマッピング分析を行った.さらに南極氷床から回収されている鉄質溶融宇宙塵についても,全岩化学組成をEPMAで行い,堆積岩から得られている三畳紀の鉄質溶融宇宙塵との比較検討を行った.
2: おおむね順調に進展している
平成24年度は以下の計画を予定していた.①カナダWilliston湖に露出する三畳紀石灰岩試料の採取②宇宙塵の化学組成の解析③宇宙塵の鉄酸化状態の解析①については,平成24年度6月に現地調査を行い,この地域の三畳紀石灰岩を試料採取することができた.現在までに,基礎データとなる薄片作成および宇宙塵回収のための酢酸処理が終わっている.本調査の成果については,平成25年2月に学会発表している.②については,平成23年度にEDXによる非破壊分析を終えた溶融宇宙塵と平成24年度に新たに回収した三畳紀溶融宇宙塵について,エポキシ樹脂で埋め込み,断面の研磨後にX線マイクロアナライザー(EPMA)で化学組成分析を行った.③についてはEPMAを用いた鉄の酸化状態解析を進め,スピネル鉱物中に含まれるFe2+/Fe3+比の定性分析を試みる予定であった.しかしながらEPMAの標準試料となるウスタイト(FeO)の試料を得ることが困難であったため,Fe2+/Fe3+比の定性分析までは至っていない.また平成24年度に発表した研究成果は,学会発表5件,国際誌への論文掲載が3件であった.以上の点から平成24年度の研究目的の達成度は良好と判断される.
平成25年度は,オーストリアおよびスロバキアに分布する上部三畳系遠洋性石灰岩およびジュラ系チャート試料を採取する予定である.この地域の遠洋性石灰岩・チャートは堆積速度が非常に遅いため,当時の地球に降下した宇宙塵を大量に含むことが知られている.また本年度の室内実験としては,現有設備の電子顕微鏡およびX線マイクロアナライザー(EPMA)を用いて以下の宇宙塵の化学組成の解析を行う予定である.平成24年度から25年度にかけて回収した宇宙塵試料は,SEM-EDXによる化学組成の定性分析を行う.確実に宇宙塵と判断された試料については,エポキシ樹脂への埋め込みおよび断面の研磨後にEPMAを用いて,化学組成の定量分析を行う.またEPMAを用いた鉄の酸化状態解析を行い,スピネル鉱物中に含まれるFe2+/Fe3+ 比の定性分析を試みる.
該当なし
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