研究課題/領域番号 |
23740379
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
町田 嗣樹 早稲田大学, 理工学術院, 助教 (40444062)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 複数総飽和実験 / プチスポット / 炭酸塩質かんらん岩 / 初生マグマ |
研究概要 |
今年度は、日本海溝から南東に600km離れた海域(プチスポット海域)の1つのプチスポット火山を対象とし、複数相飽和実験を京都大学の小木曽哲准教授の研究室にて行った。実験に先立ち、かんらん石最大分別法を用いて、マントルと平衡共存していた時のマグマの主要元素組成(初生マグマ組成)を求めた。そして、プチスポットマグマには約10%のCO2が含まれていること(平野私信)を考慮し、各主要元素の酸化物および炭酸塩の試薬を混合し初生マグマ組成を再現して、実験出発物質とした。また、分別鉱物がかんらん石のみであることは、最小自乗法による分別鉱物種の推定により確認した。上記の出発物質に対して、温度および圧力条件を変えた計33回(同条件での再実験も含む)の溶融実験を行った。最初の3回の実験では、目的の温度・圧力を2時間保持し終了としたが、低温の場合試薬が完全に融解せず未反応のままであることが判明した。そこで、完全な融解が確認された1400℃において2時間保持し、その後目的の温度に下げ、さらに2時間保持する方法(その間、圧力は目的の圧力で一定)に変更し再実験したほか、その後の実験も全て同条件で行った。反応生成物は、京都大学の電子顕微鏡および東京大学大気海洋研究所の電子線マイクロ分析計を用いて観察・分析し、実験結果の検証と共存固相の同定を行った。そして、すべての実験結果を総括し、マグマとかんらん石、斜方輝石、および単斜輝石の複数相飽和点は、おおよそ1280℃、2.1GPaであることが判明した。つまり今回対象としたマグマは、以上の温度圧力条件で炭酸塩質かんらん岩と平衡共存していた。実験と平行して、南鳥島東方の1つの火山(南鳥島海域)から採取された玄武岩の全岩および鉱物化学組成分析を行った。その他、全世界の大陸プレート起源の炭酸塩質かんらん岩捕獲岩に関する微量元素組成データベースの構築を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実施計画の段階では、今年度はプチスポット海域の他の火山と、太平洋南東部チリ海溝沖ナスカプレート上(チリ海域)の火山に対しても複数相飽和実験を行う予定であった。しかし、「研究実績の概要」で述べた実験条件の検討および変更に加え、プチスポットマグマが過去の複数相飽和実験で対象とされたマグマ(例えば島弧や中央海嶺)とは全く異なる化学組成であったことで、複数相飽和点の目処が立つまでに多くの実験が必要となり、結果的に計33回もの実験を行った。さらに、今まで全く高温高圧溶融実験の経験が無かったため、実験準備段階での失敗も多くスキルアップに時間を要した。以上のことから、プチスポット海域の1火山に対する実験に留まった。ただし実験開始前には、特殊な化学組成がゆえに「複数相飽和点が決まらない」ことも十分予想されたため、複数相飽和点および最終平衡固相の岩石学的特徴が判明したことは、今後の研究の進捗を左右する重大な成果である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は引き続き今年度の結果および改善点を踏まえ、プチスポット海域の他の火山、チリ海域、およびの岩手県沖日本海溝海側斜面で発見された火山(かいこう海丘群)とかいこう海丘群から南に200km離れた海域の火山(チョコチップ海丘群)について、複数総飽和実験を行う。同時に、今年度対象とした火山については、実験により決定された平衡固相を踏まえ、溶融モードと微量元素組成を仮定した溶融モデリングを行い、溶融に寄与したリサイクル物質を化学的に特定し、同時に部分溶融度を決定する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度に使用予定の研究費は、翌年度に当初の計画よりも多く京都大学にて実験を行う必要性が見込まれたため、使途の変更により生じた。以上に加え翌年度の研究費は、および京都大学への出張旅費のほか、主に実験生成物記録・記載用の用品、実験消耗品に使用する。
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