研究課題/領域番号 |
23740379
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
町田 嗣樹 早稲田大学, 理工学術院, 助教 (40444062)
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キーワード | 複数総飽和実験 / プチスポット / 炭酸塩質かんらん岩 / 初生マグマ |
研究概要 |
今年度は、日本海溝から南東に600km離れた海域(プチスポット海域)および日本海溝海側斜面(かいこう海丘群)に存在する、それぞれ1つのプチスポット火山(計2火山)を対象とし、複数相飽和実験を京都大学の小木曽哲准教授の研究室にて行った。なお、プチスポット海域で対象とした火山は、昨年度とは異なる火山である。出発物質の準備、実験手順および反応生成物の観察・分析、実験結果の検証は昨年度と同様の方法で行った。溶融実験は、プチスポット海域の火山については計29回(うち3回は昨年度の試料の追加実験)、かいこう海丘群の火山については計14回行った(それぞれ、同条件での再実験を含む)。そして、すべての結果を総括し、マグマとカンラン石、斜方輝石、および単斜輝石の複数相飽和点は、プチスポット海域の火山の場合おおよそ1285℃、1.8GPa、かいこう海丘群の火山の場合おおよそ1270℃、1.4GPaであることが判明した。つまり今回対象としたマグマは、以上の温度圧力条件で炭酸塩質かんらん岩と平衡共存していた。 上記の実験と平行して、南鳥島東方の1つの火山(南鳥島海域)から採取された玄武岩のSrおよびNd同位体組成分析を行った。同位体組成と、既存の主要および微量元素組成を総括して解析を行った結果、南鳥島海域で活動したマグマが、北西太平洋のプチスポットマグマとは全く異なる物質の溶融によって生成されたものであることが判明した。また、かいこう海丘群、およびかいこう海丘群から南に200km離れた海域の海丘群(チョコチップ海丘群)の既存の地球化学データを詳細に解析し、両海域のプチスポットマグマは大きく分けて2つ(細分して4つ)の組成グループに分類されることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、高温高圧溶融実験のスキルも格段に上達し、準備段階での失敗が少ない効率のよい実験を行うことができた。「研究実績の概要」で述べた今年度の結果は、昨年度対象とした火山の結果(1280℃、2.1GPaで炭酸塩質かんらん岩と平衡共存)と概ね整合的であり、北西太平洋(WP2)のリソスフェア-アセノスフェア境界の深さが82 kmであること(Kawakatsu et al., 2009, Science)を考慮し考察すると、(1)プチスポットマグマは、リソスフェア下部(深さ40から65 km)において周囲のカンラン岩と最終平衡にあったこととなる。同時に、(2)SiO2含有量の多いマグマほど、最終平衡圧力は低くなること、および(3)マグマと平衡共存する固相の量比は、火山毎に違いがあることも判明した。特に(1)は、研究実施計画の段階では見込んでいなかった大きな成果であり、「プチスポットはアセノスフェア上部(約90 km以深)に存在するマグマが噴出し生じた火山である」とする従来の仮説(Hirano et al., 2009, Science)に反する結果である。しかし、この解釈として、(a)プチスポットマグマはリソスフェアの溶融に由来する、または(b)アセノスフェアのマグマが噴出前に一度リソスフェア下部に留まり周囲の岩石と平衡に達した後噴火した、という2つが成り立つ。(a)または(b)どちらが確かかは今後検証する必要があるにせよ、上記3つの成果は、本研究の最終目標である「部分溶融の普遍性・地域性を明らかにし、プチスポットの成因を包括的に理解する」ための新知見かつ重大な制約となることは明らかである。
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今後の研究の推進方策 |
今後は引き続き今年度の結果を踏まえ、かいこう海丘群の他の火山、および南鳥島東方の1つの火山(南鳥島海域)について、複数総飽和実験を行う。ここで先述の、かいこう海丘群とチョコチップ海丘群に対する地球化学データの解析により、チョコチップ海丘群のマグマ組成は、初生マグマの推定(精度良く溶融実験を行うために必要)に多くの不確定性があり、同様の化学的特徴を示すマグマがかいこう海丘群に存在し、そちらの方が初生マグマの推定に適していることが判明した。そのため、チョコチップ海丘群は、溶融実験の対象から除外することとする。 溶融実験と同時に、これまでに対象とした火山については、実験により決定された平衡固相を踏まえ、溶融モードと微量元素組成を仮定した溶融モデリングを行い、溶融に寄与したリサイクル物質を化学的に特定し、同時に部分溶融度を決定する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費は、主に京都大学への出張旅費のほか、実験生成物記録・記載用の用品、実験消耗品に使用する。
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