今年度は、日本海溝海側斜面(かいこう海丘群)に存在する、それぞれ3つのプチスポット火山を対象として、複数相飽和実験を京都大学の小木曽哲准教授の研究室にて行った。実験および結果の検証は過年度と同様の方法で行った。溶融実験は計44回行い(うち7回は昨年度の追加実験)、同条件での再実験も含む。実験の結果、全岩微量元素組成の特徴が類似する2つの初生マグマ(グループ1aおよび1b:2つのプチスポット火山に対応)は、それぞれ1275℃、1.4GPaおよび1250℃、1.7GPaで枯渇カンラン岩と最終平衡にあったことが判明した。これらは、過年度のかいこう海丘群から南東に600km離れた海域の結果と整合する。また、初生マグマのSiO2含有量が増加すると最終平衡圧力が減少するという一般的な傾向を見出した。一方、もう一つの初生マグマ(グループ2)は、1255℃、2.1GPaで輝岩(カンラン石ウェブステライト)と最終平衡にあったことが判明した。この結果を、プチスポット海域の初生マグマの結果(ほぼ同一の圧力(2.2GPa)・1280℃で枯渇カンラン岩と平衡共存)と比べると、かいこう海丘群のグループ2初生マグマは、有意に低い温度で輝岩と平衡共存していたこととなる。さらに、グループ1と2のマグマ組成の違いは、それぞれが異なる岩石と平衡共存していたことが原因であった。 上記と平行し、北西太平洋のかいこう海丘群およびチョコチップ海丘群について、地球化学データ(昨年度に4グループに分類)と既存の噴出年代値、および各火山が位置する直下の海底年代(Muller et al. (2008)により算出)との対応を検討した。その結果、組成グループ毎に火山の位置(マグマ噴出位置)が、より古い海底へとシフトしたことが判明した。 以上のように、プチスポットのマグマプロセスを制約するための有用なデータおよび知見が得られた。
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