本研究によって、以下のことが明らかとなった。 (1) 変質によるH2の発生量は、MgO含有量20~25 wt%で明瞭に切り替わり、これ以上では10mmol/kgオーダーの水素が生ずるのに対して、これ以下ではサブmmol/kgオーダーの水素しか生じないことがわかった。このことから、変質という観点から見たコマチアイトと玄武岩の境目は、岩石学上の定義であるMgO=18wt%よりややMgに富んだ20-25wt%にあることになり、太古代から原生代に良く見られるMgにやや乏しいコマチアイトやMgに富んだ玄武岩(コマチアイト質玄武岩)は、変質による水素発生には関与しないと考えられる。 (2) コマチアイトのAl組成は、バーバートンタイプからゴルゴナタイプまでの範囲では、水素発生量に大きな影響を与えないことがわかった。このことから、時代によるコマチアイトのAl組成変化が、変質による水素の発生量には顕著な影響を及ぼさなかった可能性が高いと考えられる。ただし、ゴルゴナタイプよりわずかにAlに富んだコマチアイトでは、蛇紋石化よりも緑泥石化が卓越し、水素発生量が明瞭に低くなることから、Al組成の境界はゴルゴナタイプのトレンドの僅かに高Al側に存在している。 (3) カンラン岩は300℃で水素発生量が最高値に達して、それより高温では水素発生量が急激に減少するのに対して、コマチアイトは350℃で水素発生量が最高値に達し、400℃でもあまり下がらないことがわかった。これは、コマチアイトがカンラン岩と異なりSiO2の活動度が高いために、400度になってもカンラン石が安定にならないことが影響していると考えられる。一般的に、海底熱水系の水ー岩石反応場の温度は約400℃まで上がると考えられていることから、変質による水素の発生には現世のカンラン岩型よりも、プレカンブリアンのコマチアイト型の方が有利だった可能性がある。
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