H25年度にはカルサイトとアラゴナイトの鉱物が共存するアワビ類とカルサイトからなるホタテガイ類の貝殻を材料として研究を進めた。アワビ類については、東北地方の大槌と泊浜で採集された材料のほか、韓国南岸で採集されたものと中国地方瀬戸内海で養殖されているエゾアワビとクロアワビを材料として用いた。ホタテガイ類については化石と現生の標本を入手し、化石を年代測定を行った上でカルサイト殻の成長速度を見積もった。現生は北海道オホーツク海およびサロマ湖と青森県陸奥湾で養殖されたものである。化石は駿河湾海底、九州西方沖海底、鹿児島の完新統から採集されたもので、約3万~約1万年前の年代を示す。昨年度のアワビ殻の鉱物分布を分析した予察研究から、アラゴナイトとカルサイトの分布を測定するにはラマン分光法が適していることがわかったため、この手法を用いてアワビ殻の外殻層部分の断面の鉱物分布を検討した。ラマン分光法による分析結果から、アワビ殻の外殻層にはアラゴナイトとカルサイトが混在していることが明らかとなった。これは前年度からわかっていたことであるが、今回これらの鉱物が層状に分布していることが判明した。外側表面から、外殻層のアラゴナイト、外殻層のカルサイト、中殻層および内殻層のアラゴナイト(真珠層)という順番である。つまり、このアワビ類は同時期にアラゴナイトとカルサイトを作り分けているということである。今回は鉱物分布の比率や季節との関連性まで明らかにすることはできなかったが、今後の研究課題として、アワビ類のカルサイトとアラゴナイトの作り分けの要因について研究を進めていく方向性がわかった。
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