研究課題/領域番号 |
23740387
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研究機関 | 独立行政法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
黒田 潤一郎 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球内部ダイナミクス領域, 研究員 (10435836)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | クロム同位体 / 酸化還元電位 / 海洋無酸素事変 / 白亜紀 |
研究概要 |
本研究課題は、白亜紀海洋無酸素事変におけるクロム同位体変動から海洋の還元化プロセスを明らかにするという研究である。申請期間内の研究計画は以下の3段階からなる。第1段階は実験環境の整備と分析技術の向上、第2段階は試料採取と実際の分析、第3段階はデータにもとづく古海洋学的検討である。平成23年度の前半は、第1段階(実験環境の整備と分析技術の向上)に努めた。具体的には、クリーンルームでのクロム分離環境の整備、クロム抽出のための試薬類の調整と品質評価、マルチコレクター型誘導結合プラズマ質量分析計(MC-ICP-MS)感度・精度向上のための調整である。平成23年度の後半は、第2段階(試料入手,評価,同位体分析)をスタートさせた。掘削試料の入手、試料の記載(岩相記載と顕微鏡観察)、分析試料の選出、前処理、四重極型誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-QMS)を用いた主要元素・微量元素測定、クリーンルームでのクロム抽出・分離、MC-ICP-MSを用いたクロム同位体測定とデータ解析を行い、データを取得することができた。この成果の一部を、日本地球化学会で発表した。特筆すべき最大の成果は、分析感度の向上とブランク低下により必要試料量を低下させた点である。従来の方法では、1回の分析につき約250 ngのクロムが必要であった。炭酸塩相中のクロム濃度は0.2~0.3 ppmであるので、1回の分析で試料約1 gが必要であった。これに対し、1回のカラム分離で処理できる炭酸カルシウム量は100 mgである。つまり,1試料につき10回のカラム分離が必要で、時間の浪費が著しく大きかった。平成23年度の取り組みで、質量分析計の精度を保ったまま感度を上げ、ブランクも下げることができ、最終的に100 ng の試料量で分析できることがわかり、作業効率が向上した。さらに、平成24年度にも引き続き分析技術の向上に努める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のとおり、平成23年度の前半は、実験環境の整備と分析技術の向上に努めた。具体的には、クリーンルームでのクロム分離環境の整備、クロム抽出のための試薬類の調整と品質評価、マルチコレクター型誘導結合プラズマ質量分析計(MC-ICP-MS)感度・精度向上のための調整を行った。特に、分析手法の向上により、従来法よりも少ない試料量での測定が可能になった。平成23年度の後半は、実際の分析試料を採取し、試料の記載(岩相記載と顕微鏡観察)、選出、前処理、主要元素・微量元素測定、クリーンルームでのクロム抽出・分離、MC-ICP-MSを用いたクロム同位体測定とデータ解析を行い、プレリミナリーデータを取得することができた。こういった成果は、おおむね当初の計画通りである。さらに、得られたデータのうち、主要元素と微量元素の濃度の結果については、すでに論文執筆に取りかっており、平成24年度前半での投稿・出版を目指している。また、クロム分析に関する成果の一部を学会発表で公表した(黒田潤一郎&R.H. James,2011,石灰質堆積物のクロム同位体組成,日本地球化学会2011年年会,2011年9月,札幌)。
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今後の研究の推進方策 |
上記の通り、本研究課題では申請期間内の研究計画を以下の3段階とした。第1段階は実験環境の整備と分析技術の向上、第2段階は試料採取と実際の分析、第3段階はデータにもとづく古海洋学的検討である。引き続き分析技術の向上が必要であるものの、おおむね計画通りに進めたことで第2、第3段階を進めることが可能となった。今後の研究では、引き続きデータの取得を重点的に行い(平成24年度前半、第2段階)、その古海洋学的意義に関する検討(平成24年度後半、第3段階)を進めたい。平成23年度の研究を通して、新しい課題も見えてきた。それは、「炭酸塩化石がはたして過去の海水のクロム同位体の記録媒体として最適か?」という疑問である。これまでの研究で、無期沈殿した炭酸塩(ウーイド)は海水のクロム同位体比を反映しているが、炭酸塩化石のそれは海水からクロムを取り込むかどうかが明瞭ではない。マンガン酸化物からのクロムのコンタミネーションの可能性といった問題が新たに浮上し、炭酸塩化石の再検討が必要となってきた。これに取り組むために、今後は別の鉱物(蒸発岩や鉄酸化物)のクロム取り込み過程とその同位体分別を室内実験によって明らかにすることが有効であると考える。平成24年度には、クロムの取り込み実験を行いたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度の研究で、分析手法がある程度確立されたものの、引き続き感度の向上を図る必要がある。平成24年度には、このために物品が必要となる。また、ルーチン分析に必要な消耗品類の購入が主たる物品費となる。上記のように、室内実験を行ってクロムの取り込み機構に迫る。このための実験器具を購入する(平成24年度前半)。平成24年度も、引き続きサウサンプトン大学やオープン大学に赴き、クロム分析のパイオニアであるRachael James 博士とIan Parkinson 博士と議論や実験手法の情報交換を行いたい。外国旅費はこのために利用したい(平成24年度前半)。2年間の研究成果を論文にし、投稿する。このための英文校閲や投稿料、学会での発表の際の投稿料が必要である(平成24年度後半)。
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