研究課題/領域番号 |
23740388
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
栗谷 豪 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (80397900)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 火山 / 岩石学 / 地球化学 / マントル / 水循環 |
研究概要 |
沈み込み帯から地球内部に潜り込んだスラブの一部は、地球深部に崩落する前にマントル遷移層内で一時的に滞留すると考えられている。本研究では、停滞太平洋スラブの直上に位置する中国北東部の新生代火山岩を対象に岩石学的・地球化学的解析を行い、沈み込んだスラブが停滞しているマントル遷移層内での化学的プロセスを実証的に理解することを目的とする。平成23年度は当初、中国北東部のChangbaishan地域において野外調査を行い、さらにマントル遷移層条件下におけるK-hollanditeの安定領域に関する実験を行う予定であった。しかしその準備段階において、中国北東部に分布する第四紀火山岩の地球化学的特徴を、文献値などを用いて検討した結果、直下のマントル遷移層は、現在の停滞太平洋スラブだけでなく、原生代に沈み込んだ停滞スラブからも化学的な影響を受けていた可能性が示唆された。そこで、その要因についてさらに詳細に検討した結果、(1)現在の中国北東部直下のマントル遷移層は世界的に見て顕著に水に富んでいるが、これは現在の太平洋スラブと原生代に沈み込んだ停滞スラブの両方から脱水を被っていたためであること、そして(2)原生代に含水化したマントル遷移層は、その後10億年以上にわたり、地球内部の安定した水の貯蔵庫として存在し続けていたことが明らかになった。この成果は、Nature Geoscience 誌に掲載されるに至った。そこで引き続き、マントル遷移層が被った、現在と過去の停滞スラブからの化学的影響についてさらに制約を与えるため、中国北東部・五大連池の火山岩の解析を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の遂行の途上で、当初の予想をはるかに超える現象を見出すことができた。また今年度は震災の影響で予算大幅削減の可能性が年度の初めに通達されたため、中国での野外調査は中止を余儀なくされたが、文献の調査や博物館に保管されている岩石試料を拝借して解析を行うことにより、このマイナス点はある程度補うことができた。しかし、当初はマントル遷移層条件下での元素分配実験を行う予定であったが、検証すべき対象である火山岩の化学的特徴が、予想を超えて複雑であることが判明したため、次年度に持ち越しとなった。
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今後の研究の推進方策 |
中国北東部下のマントル遷移層は、停滞太平洋スラブのみの影響を被っていると予想して研究計画を構築したが、実際には原生代の停滞スラブの影響も被っていることが平成23年度の研究で明らかになった。このことから、両者の効果をうまく分離することができれば、沈み込んだスラブの停滞に伴うマントル遷移層内の短期的、及び長期的な化学的汚染(含水化)の、両方のプロセスを理解することが可能になると考えられる。この目的達成のためには、当初の研究計画(長白山を中心とした半径約300 km以内)より対象地域を広げる必要があるため、当初の計画では対象範囲外であった五大連池火山の岩石の解析をすすめ(平成23年度の後半から既に開始)、さらに西南日本に分布する第四紀のプレート内火山岩(長崎県福江火山)の解析も追加で行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
上述のように、(1)平成23年度に予定していた中国での野外調査が中止を余儀なくされたため、その分の研究費が平成24年度に繰り越されたこと、(2)原生代の停滞スラブの影響を被っていることが平成23年度の研究で明らかになったため、当初の目的の研究を遂行するためには研究対象地域を広げる必要が出てきたこと、の2点が当初の研究計画からの主な変更点である。そこで、当初の研究計画に入っていなかった(2)の研究(五大連池の火山岩の地球化学的解析、及び長崎県福江火山の岩石の試料採取・地球化学的解析)に、(1)で生じた繰越金を充当して対応することとする。
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