沈み込み帯から地球内部に潜り込んだスラブの一部は、地球深部に崩落する前にマントル遷移層内で一時的に滞留すると考えられている。本研究では、沈み込んだスラブが停滞しているマントル遷移層内での化学的プロセスを実証的に理解することを目的とし、停滞太平洋スラブの直上に位置する中国北東部の新生代火山岩を対象に岩石学的・地球化学的解析を行った。平成23年度は長白山火山とその周辺地域の火山岩を対象に研究を行い、その結果、中国北東部直下のマントル遷移層が、現在の停滞太平洋スラブだけでなく、原生代に沈み込んだ停滞スラブからも化学的な影響を受けていたことが明らかになった。そこで平成24年度は、これらの化学的影響についての詳細を理解するため、①中国北東部の五大連池火山、および②長崎県福江島火山における火山岩の解析を新たに手掛けた。①については、マグマの推定噴出温度や火山岩の地球化学的特徴に基づき、五大連池火山のマグマは従来考えられていたような大陸下リソスフェア起源ではなく、マントル遷移層起源である可能性を提示した。そしてソースマントルに含まれる遷移層起源物質は、「現在の停滞スラブ由来の流体+原生代の堆積物」および「現在の停滞スラブ由来の流体+同スラブの堆積物+原生代の堆積物」を端成分とする混合物であること、また原生代の停滞スラブの年代は1.5 Gaより古いこと、などを明らかにした。②については採取試料の全岩主成分元素濃度測定を行い、さらにMgO量が顕著に高い試料について詳細な岩石学的記載と全岩微量元素濃度測定を行ったが、具体的な解析は次年度以降に持ち越しとなった。
|