研究課題
東南極セールロンダーネ山地の泥質変成岩類について、黒雲母・燐灰石に含まれる塩素濃度を産状別に決定したところ、バルヒェン山の試料については、ザクロ石斑状変晶のリム部にのみ塩素に富む黒雲母と燐灰石が包有されることがわかった。ザクロ石コア部とマトリクスには塩素に乏しい黒雲母・燐灰石が存在する。温度条件・黒雲母の組成を考慮して求めたfHCl/fH2Oはザクロ石リム部で一桁上昇しており、塩素に富む流体が流入したことがわかった。その温度・圧力・時間条件は約800℃、8kbarであり、変成ピーク付近であった。また、ザクロ石のリム部とマトリクスにのみ存在する粗粒で丸いジルコンのU-Pb年代測定を行ったところ、約600Maを得た。これはセールロンダーネ山地の変成ピーク年代と一致するから、塩素に富む流体の流入は変成ピーク近くで起きたことがわかった。ザクロ石中に塩素に富む黒雲母が保存されている例はセールロンダーネ山地全域に線状の配列をなして広がり、これらは大規模延性剪断帯の分布に沿っているように見える。従って塩素に富む流体の活動は、大陸衝突イベントの主要なプロセスの一部である可能性があることが示唆された。 一方、沈み込み帯の例として、領家帯の試料についても解析を進めた。青山高原地域の片岩-ミグマタイト境界付近でジルコンの年代測定と包有物測定を進め、ミグマタイト中のジルコンの、約93Maを示すリム直近からガラス包有物を発見した。これはジルコンリム成長時にメルトが共存した証拠である。メルト包有物と同時に成長した部分には黒雲母やカリ長石も包有されていることも確認した。
2: おおむね順調に進展している
東南極セールロンダーネ山地の試料については、平成24年度・25年度に行う予定であったLA-ICP-MSによるジルコン年代測定と温度圧力条件の推定の一部を前倒しして実施している。また、領家変成帯の試料およびタイ・インタノン帯の試料についても、ジルコン年代測定を前倒しして実施した。従って、これらの面では予定以上に研究が進展している。一方で、領家変成帯およびタイ・インタノン帯の試料について、黒雲母中の塩素濃度の決定や、国際学会による情報収集が予定通り行えていない。これらは前倒しした研究内容の代替として次年度以降に実施できるため、研究はおおむね計画通り、順調に進展していると言ってよい。
昨年度は国際学会に参加しての情報収集ができなかったため、次年度使用額が生じたが、次年度にGoldschmidt国際会議に出席して情報収集を実施する予定である。
東南極セールロンダーネ山地の試料のEPMAなどによる分析数を増やすため、EPMAの消耗品や大学院生による実験補助に研究費を用いる。また、炭素・硫黄同位体比測定、もしくは、塩素同位体比測定にかかる費用を研究費から支出する。さらに、昨年度実施できなかった、国際学会に参加しての最先端の研究動向・成果の情報収集や本研究課題の成果発表について、大学院生による情報収集等の補助を受けながら重点的に実施する。
すべて 2012 2011
すべて 学会発表 (7件)