研究課題
南極セール・ロンダーネ山地の苦鉄質岩試料中の角閃石の塩素濃度の分布の解析を進めた。このうちブラットニーパネの苦鉄質岩試料から、片麻状構造を高角に切る塩素に富む流体流入脈を見いだした。この脈は母岩から脈の中心に向かって塩素、ナトリウム、カリウム濃度が上昇する傾向があり、①塩素と共に動いた陽イオンはナトリウムやカリウムであること、②塩素濃度の上昇はその場で起きたのではなく、外部からの高塩素濃度流体の流入によること、が明らかとなった。また、ブラットニーパネでは泥質岩中のザクロ石の包有物としても塩素に富む流体活動の痕跡が見つかっているため、③塩素に富む流体活動が変成作用のピーク以降、複数段階で起きていたことが明らかとなった。また、昨年度に詳細に研究したバルヒェン山の泥質岩試料中で、塩素に富む流体流入に伴い、希土類元素の移動が起きていたことがわかった。すなわち、ザクロ石のコアでは軽希土類元素に富む鉱物(モナズ石)が卓越するが塩素に富む流体活動と同時ないしは後に成長したリムでは重希土類元素に富む鉱物(ジルコン、ゼノタイム)が卓越する。塩素に富む流体により、軽希土類元素、トリウムが流出し、重希土類元素、ジルコニウム、イットリウムが流入したようである。領家変成帯青山高原地域ミグマタイト中のジルコンについて詳細に調べたところ、昨年度メルト包有物が発見されたのと同じ微細組織を持つ部分から、直径2ミクロン程度のナノ花崗岩包有物が領家変成帯ではじめて見つかった。この構成鉱物に黒雲母も含まれるが、非常に細粒なため塩素濃度の分析はできなかった。このように、部分溶融を伴う領家変成帯高温部(青山高原地域)の試料やタイおよびネパールヒマラヤの高温変成岩試料からは、これまでのところ塩素に富む流体活動の痕跡は見つかっておらず、部分溶融に伴って必ず黒雲母中の塩素濃度が上昇するというわけでもないようである。
2: おおむね順調に進展している
研究の目的のうち、(a)リンによるザクロ石の組成累帯構造を等時面として利用し、(b)ザクロ石中のジルコンの消長と(c)流体活動の痕跡である塩素に富む黒雲母の消長を総合的に解析し、塩素にとむ流体によって移動した元素の種(Na,K,REE)を明らかにすることができている。また、このような流体活動の年代決定も順調に進んでいるほか、複数段階の流体流入イベントがあったことが明らかになってきており、大陸衝突に伴う塩素にとむ流体活動の時空間分布の一端を制約できてきている。
当初計画していた炭素や硫黄の同位対比測定は、塩素にとむ流体活動によってこれらの元素があまり動いていないように見えるため、これを見合わせ、代わりに塩素同位対比の測定の有効性を検討し、塩素にとむ流体の起源に制約を与えていく。部分溶融による黒雲母などへの塩素濃集も可能性としてまだ否定できないため、南極以外の試料についても引き続き分析を行って検討する。また、SHRIMPなどのさらに高度な分析機器で空間解像度を上げて分析することで、流体活動の時空間分布をより精密に制約していく。
最終年度に当たり、国際・国内学会での情報収集と成果発表を行い、考察を深める。また、塩素の起源を探るため、マントル物質と地殻物質が相互作用しているフィールドに出向いて野外調査を行い、岩石試料を採取し、EPMAなどを用いて化学分析を行う。塩素同位対比分析の費用を、必要であれば支出する。成果発表時の論文の図表のカラー印刷代などにも研究費を使用する予定である。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (13件)
Contributions to Mineralogy and Petrology
巻: 165 ページ: 575-591
10.1007/s00410-012-0824-7
Precambrian Research
巻: - ページ: -
10.1016/j.precamres.2012.10.006.
地質学雑誌
巻: 18 (補遺) ページ: 79-89