研究課題/領域番号 |
23740393
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
大内 智博 愛媛大学, 地球深部ダイナミクス研究センター, グローバルCOE研究員 (60570504)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | かんらん石 / 格子定向配列 / 上部マントル / 水 / せん断変形 |
研究概要 |
本年度においては、変形によって発達する、かんらん石多結晶体の異方的構造(かんらん石粒子の格子定向配列)が、水によってどのような影響を受けるのかについてを上部マントル浅部条件において実験的に研究を進めてきた。 実験ではD-DIA型変形装置を用い、2.1-5.2GPa, 1500-1670Kの無水条件下でのかんらん石多結晶体のせん断変形実験を行った。結果として、水に乏しい条件下(COH <650 ppm H/Si)においてはA-typeファブリック([100]方位がすべり方向に集中、かつ[010]方位がすべり面の法線方向に集中)が発達する一方で、水に富んだ条件下(> 1000 ppm H/Si)においてはB-typeファブリック([001]方位がすべり方向に集中、かつ[010]方位がすべり面の法線方向に集中)が発達した。この結果は、かんらん石において地震波速度の伝播が最も速いa軸の向きがかんらん石中に溶存した水の量によって変化することを示している。すなわち、水に枯渇したマントルにおいては、速いS波(VS1)の振動方向がマントルの流れの方向と平行である一方で、水に富んだマントルにおいてはVS1の振動方向がマントルの流れと垂直であると推定される。種々の沈み込み帯において、火山フロントを境として海溝側ではVS1の振動方向がマントルの流れと垂直であり、背弧側ではVS1の振動方向がマントルの流れと平行であるといった観測結果が一般的に報告されている(Smith et al., 2001)。このような地震波速度異方性は、沈み込み帯におけるマントルウェッジにバイモーダルな水の不均質分布が存在すると仮定することで説明することができる。 以上の成果は、Earth Planet. Sci. Lett.等の国際誌や学会にて公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画においては、本年度(平成23年度)においては無水かんらん石多結晶体に関する実験を全上部マントルの温度圧力条件下(2-13 GPa, 1400-1700K)において行い、次年度(平成24年度)において含水かんらん石多結晶体に関する実験を同様の条件下において行う予定であった。しかし、研究を進めてゆくにつれ、かんらん石における水の効果を逐次検討しながら実験を進めてゆくことがより効率的であることが判明した。そのため、計画を多少変更し、無水および含水かんらん石多結晶体に関する実験を同時進行で行うこととした。 上記の計画変更により、本年度において扱った実験対象(論文として取りまとめたものに限る)は上部マントル浅部(2.1-5.2GPa, 1500-1670K)に留まった。その一方で、より高圧条件においてせん断変形実験の行える実験用セルの開発を行ってきた。新たに開発したセルを用い、次年度には当初の研究計画を全て達成できる目処が立っている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度においては、かんらん石多結晶体の異方的構造に対する水の効果を上部マントル中部~深部条件において実験的に検討する。実験手法は本年度と同様であり、D-DIA型高圧変形装置および電子線後方散乱回折装置(EBSD)を用いて実験を行っていく。次年度では、二年間の分析結果をもとに、マントル流動方向とかんらん石の結晶軸の方位関係、及び地震波速度異方性の特性を集約した"ファブリック・ダイアグラム"を完成させる。最終的にはこれを実際の地震波観測結果と比較することにより、上部マントルにおける流動パターンを解読することを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度においては、当初の計画通りに高温高圧下での変形実験に必要な消耗品(高圧実験用アンビル、実験用資材等)に対して主に使用する予定である。また、二年間の成果を公表するため、国際学会参加のための外国旅費、ネイティブによる英語論文の英文校閲代、及び論文別刷代についても使用する予定である。
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