研究概要 |
本研究では、上部マントルの主要構成鉱物“かんらん石”のa軸(最も地震波伝播の速い結晶方位)がマントルの流動方向とどのような方位関係にあるのかを実験的に明らかにすることで、上部マントル全体の流動方向を解読するための鍵となる、“ファブリック・ダイアグラム”を構築していくことを目指してきた。 最終年度である本年度では、上部マントル深部の温度圧力条件下(7-13 GPa, 1400-1800K)における、無水および含水かんらん石多結晶体(上部マントル構成岩石)のせん断変形実験を行った。その結果として、無水条件下ではC-typeファブリックに分類されるかんらん石の結晶方位定向配列の発達が観察された一方で、含水条件下ではB-typeおよびA-typeファブリックがそれぞれ中程度の含水条件(750-2130 ppm H/Si)および水に富んだ条件下(> 2130 ppm H/Si)において発達することが確認された。すなわち、水の効果によってC-typeからB-type及びB-typeからA-typeへの二段階のファブリック・トランジションが起きることが明らかとなった。 上部マントル深部において観測されている地震波速度異方性の特性のうち、特にS波速度異方性VSH/VSV比は一般的に1未満であることが一般的であることが知られている。東太平洋海嶺下における上部マントル深部などの一部の例外では、VSH/VSV比が1以上であることが知られている。本研究で作成したファブリック・ダイアグラムにより、一般的な上部マントル深部では水に乏しいマントルの水平流が卓越していると解釈され、 東太平洋海嶺下の特異な上部マントル深部では水に富んだマントルの上昇流が卓越していると解釈される。 本研究における成果は、Earth Planet. Sci. Lett.をはじめとした国際誌などにおいて公表した。
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