研究課題/領域番号 |
23740398
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研究機関 | 独立行政法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
柵山 徹也 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球内部ダイナミクス領域, ポストドクトラル研究員 (80553081)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 国際情報交流 / 北京大学 / 中国東部地域 / アルカリ玄武岩火山 / 停滞スラブ / 上部マントル / 背弧火成活動 / HIMU玄武岩 |
研究概要 |
沈み込んだスラブからの影響がどの程度背弧側の上部マントルまで及んでいるのか検討するために、中国東部新生代プレート内火山の岩石学的・地球化学的検討を行った。これまでに採取済みの試料に対しては、全岩主要・微量元素分析・Sr-Nd-Pb同位体分析を行っている。山東省WudiおよびQixiaに噴出したアルカリ玄武岩は特に、中国東部一帯の新生代アルカリ玄武岩中で最も全岩FeOやTiO2に富み、SiO2に乏しいという端成分的特徴を有していることを明らかにしている。平成23年度は代表的な試料中の斑晶鉱物(主にかんらん石、輝石)のEPMA分析、およびWudi・Qixiaアルカリ玄武岩の全岩Hf同位体分析を新たに行い、一部の成果を論文にまとめた。斑晶に富む試料でも、かんらん石は5vol%以下、単斜輝石は1vol%以下のほぼ無斑晶質である。よって、計算により推定した石基組成も依然として極端な全岩主成分化学組成(高FeO, TiO2, 低SiO2, Al2O3)を有する。また、上記の端成分的特徴を有する試料は放射性起源Hfに富み、Nd-Hf同位体図上において、想定されるアセノスフェアマントルと太平洋MORBとの混合線上に分布する。微量元素組成は海洋島に噴出するHIMU玄武岩のそれと酷似している。そしてその特殊な玄武岩は南北1500km近くにわたり分布し、太平洋スラブの西端付近に分布する。これらの議論から起源物質として沈み込んだ海洋地殻の寄与しているモデルを提案し、Earth and Planetary Science Letters誌へ投稿中である。数億年間以上隔離された海洋地殻のリサイクルは海洋島のHIMU玄武岩で数多く指摘されているが、長期間保存される前の段階で背弧域において海洋地殻が玄武岩火山の起源物質として環流している可能性を適切に指摘したのは本研究が初めてである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、ユーラシア東縁部新生代プレート内玄武岩火山の(1)岩石学的検討を行った上で、(2)マントル融解条件を推定し、(3)火山活動をもたらしたマントルプロセスを明らかにし、(4)他のプレート内火山との対比を行うこと、を目的する。対象は中国東部及び東北部玄武岩火山である。現時点で、中国東部(山東半島以南地域)火山からのサンプリング、各種分析(顕微鏡観察、斑晶モード測定、全岩主成分・微量元素、放射性同位体元素など)をほぼ終えている。(1)の検討を行った結果、中国東部の一部の玄武岩火山の化学組成は、かんらん岩の部分融解では生成が困難なこと、脱水を経験した中央海嶺玄武岩が二酸化炭素存在下で融解することでうまく説明できることを明らかにした。一方、(2)の検討はかんらん岩が起源物質であることを前提としているため、中国東部の特定の玄武岩では、その前提が崩れる。玄武岩組成の起源物質を使った融解実験が今後多数行われれば、融解条件を推定できる可能性があるが、現時点では玄武岩から融解条件を推定するのは困難である。しかし、上記の特殊な組成の玄武岩の地球化学的特徴や、空間分布が地震波トモグラフィーによる太平洋スラブの分布に非常によく一致していることなどから、スラブ内海洋地殻の少なくとも一部が背弧域で上昇してきている可能性を指摘した点で、(3)の一部は達成していると考えている。これらの成果の一部はEPSL誌へ投稿中である。また本研究で発見した中国東部に分布する特殊な化学組成の玄武岩は、フランスのプレート内火山にも見出されているが、これまでのところ地球上のその他の地域では報告がない。フランスの玄武岩についてはスイス・ローザンヌ大学のPilet博士が詳細な岩石学的・地球化学的研究を精力的に行なっている。申請者はPilet博士と連絡を取り、フランスと中国の特殊な玄武岩の起源について議論を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、中国東北部の玄武岩試料を対象として、岩石学的・地球化学的検討を進める。まず平成24年9-10月頃にWudalianchi周辺でのサンプリングを行う。申請段階では、平成23年度に中国東南部試料のサンプリングを行う予定であったが、以下の理由により延期するに至った。中国東部試料について追加で分析を行ったこと(Hf同位体)、中国東部試料の成果のみで論文化が可能になったこと、中国の共同研究者との日程調整で平成23年度でのサンプリングが困難であったこと。よって現段階では、平成24年度は当初の予定通り秋口にかけて中国東北部のサンプリングを行い、平成25年3月頃に東南部のサンプリングを行う予定である。中国東北部および東南部のサンプリングはそれぞれ10日間程度の滞在を予定している。サンプリングは、日本側からは研究代表者およびもう一人、中国側は共同研究者北京大学Wei Tian准教授および中国人調査補助一人の計4人で行う。現地ではレンタカーを利用し、北京から調査地域へ向かう。 東北部の試料については、薄片作成、モード測定、偏光顕微鏡・SEM観察、EPMA分析、全岩粉末試料作成、XRF分析までを平成24年度内に、ICP-MS分析、TIMS分析を平成25年度に行う予定である。東南部の試料は平成25年度内に上記の各種分析を行う。 コンパイルの結果から、中国東北部Wudalianchiはユーラシア東縁部新生代プレート内玄武岩火山の中で、主成分・微量元素・同位体いずれにおいても端成分的な化学組成を有していることが分かっているが、これまでその化学的特徴を統合的に説明する研究は行われていない。中国東北部試料に関して、コンパイルデータと調和的なデータセットが得られれば、中国東部試料との比較に基づいて、中国東北部プレート内火山の起源が東部とは異なることが指摘するモデルを提出できるだろう。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費は2度のサンプリング(中国東北部及び東南部)に伴う諸経費および分析用消耗品の購入にあてる。(中国東北部サンプリング)(外国旅費)航空券代:40千円×2人=80千円、滞在費(宿泊、食費):5千円×10日間×4人=200千円、(その他)調査用レンタカー:100千円、サンプル輸送:100千円、岩石薄片作成:5千円×60枚=300千円、(謝金等)50千円(中国東南部サンプリング)(外国旅費)航空券代:40千円×2人=80千円、滞在費(宿泊、食費):5千円×10日間×4人=200千円、(その他)調査用レンタカー:100千円、サンプル輸送:100千円、岩石薄片作成:5千円×30枚=150千円、(謝金等)50千円(消耗品費)サンプルコンテナ:10千円、分析用薬品:100千円、分析用ガス:40千円、論文校閲:50千円、データ保存用ハードディスク:50千円
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