研究課題/領域番号 |
23740398
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研究機関 | 独立行政法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
柵山 徹也 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球内部ダイナミクス領域, 研究員 (80553081)
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キーワード | 国際情報交換 / 北京大学 / 中国東北部地域 / アルカリ玄武岩火山 / 停滞スラブ / 上部マントル / 背弧火成活動 / 沈み込み堆積物 |
研究概要 |
本研究計画では、沈み込んだ海洋プレートからの影響がどの程度背弧側の上部マントルまで及んでいるのかを明らかにするために、中国東部・東北部の新生代プレート内火山の岩石学的・地球化学的検討を行っている。同地域には散発的かつ広範囲にアルカリ玄武岩火山が噴出しており、コンパイルしたそれらの火山岩の化学組成に基づいて、大きく2種類の端成分的性質を持つ玄武岩と、それらの混合により生成した玄武岩に分けられるとするモデルを筆者は新たに提案している。しかし本地域の玄武岩は、これまでも化学分析の報告は多数あるが、全データ(主成分、微量、同位体)の揃った報告はほとんどなかったため、詳細なマグマプロセスの検討ができないという問題があった。 本計画ではこれまで、一方の端成分に当たる玄武岩の噴出している中国東部において調査・試料採取・分析を行ってきた。今年度は、もう一方の端成分に相当すると考えられる玄武岩が噴出している、中国東北部のWudalianchi(五大連池), Keluo(科洛), Kedong(京東), Neimenggu(内モンゴル)東北部に位置する玄武岩火山とその周辺の調査を6-7月にかけて新たに行い、計53試料(玄武岩、閃緑岩、花崗岩)を採取した。採取した全試料に対して、薄片試料の作成、全岩分析用粉末試料の作成を行い、粉末試料に対しては蛍光X線分析装置を用いて、主成分元素及び微量元素組成の分析を行った。全岩化学組成分析の結果は、これまで報告されている分析結果と概ね整合的であり、目的とする玄武岩試料を採取することができた。 また、昨年度行った中国東部の玄武岩の研究成果を含んだ論文は、査読を経て修正を行い、再査読中である。論文修正に伴い、査読者の指摘に従って、3試料の全岩Nd-Hf同位体分析を平成24年度に新たに行い、より詳細なマントル融解モデルを構築して再計算を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、ユーラシア東縁部新生代プレート内玄武岩火山の(1)地殻内での分化プロセスを適切に評価した上で、(2)マグマ起源物質やマントル融解条件を推定し、(3)火山活動をもたらした上部マントルプロセスを明らかにし、(4)他のプレート内火山との対比を行うことを目的として、中国東部及び東北部玄武岩火山を対象に研究を行なっている。 本研究を開始するにあたり、中国東部・東北部のアルカリ玄武岩には2種類の端成分的組成を有する玄武岩が存在することを、コンパイルデータからすでに明らかにしていた。その一つの端成分が噴出する中国東部(山東半島とその以南地域)では、サンプリング、各種分析(顕微鏡観察、斑晶モード測定、全岩主成分・微量元素分析、放射性同位体元素比分析等)をほぼ全て終了した。その結果、中国東部の一部の玄武岩火山の化学組成は、かんらん岩の部分融解では生成が困難なこと、脱水を経験した中央海嶺玄武岩が二酸化炭素存在下で融解することでうまく説明できることを明らかにした。さらに、その特殊な玄武岩の噴出地域が、停滞スラブの分布と密接な関連を示すことから、沈み込んだスラブ内海洋地殻の一部が背弧域で何らかのメカニズムで上昇してきている可能性を初めて指摘した(現在投稿中)。さらに、中国東部玄武岩に酷似した化学組成を有する玄武岩を、世界で唯一噴出しているフランスのプレート内火山との比較と起源の違いも検討している。 当初計画していたサンプリングは、中国東部・東北部含め予定通りほぼ全て終えることができており、そのうち半分にあたるひとつの端成分玄武岩についてはまとめも終了したことから、現時点で達成目標の半分は達成されていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画していたサンプリングは、予定通りほぼ全て終えることができ、そのうち半分は分析・まとめまで終了しているため、今後は残る半分の試料の分析とまとめ、追加分析、及び全体の総括を行う。成果はAGU等の国際学会でも発表する。 今年度採取した中国東北部の試料についても、薄片作成、偏光顕微鏡・SEM観察、全岩粉末試料作成、XRF分析までは平成24年度内に終了することができたため、平成25年度内にSEM観察、EPMA分析、ICP-MS分析、TIMS分析を行い、まとめられる段階にあると考えている。一方、本研究を含めた最近の研究から、停滞スラブからの水・二酸化炭素の供給が、中国東部・東北部両地域における火成活動において重要な役割を担っていることが明らかになってきている。しかし、斑晶組み合わせの単純な、比較的未分化な玄武岩試料が本地域では多いため、斑晶組み合わせや結晶分化プロセスを用いたマグマの含水量測定が困難である。そこで追加として、カンラン石・斜長石斑晶の分離を行い、斑晶中のメルト包有物の含水量・二酸化炭素含有量の測定を平成25年度後半に行うことを新たに計画している。斑晶鉱物の分離およびメルト包有物分析には、海洋研究開発機構に設置されている鉱物分離装置とフーリエ変換赤外分光光度計を用いるため、追加で分析装置等を購入する予定はなく、必要な消耗品も比較的安価なため、申請している予算額の範囲内で追加分析は達成できるものと思われる。ただし、玄武岩に含まれる斑晶量が少なく、採取してきた岩石試料では十分な量の斑晶が分離できない可能性があるため、追加でサンプリングを行う可能性がある。その場合は、これまでより短期間の滞在(~1週間弱)で、集中的に試料採取を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費は主に分析用消耗品購入、論文校閲、追加サンプリングの費用に用いる。 (消耗品費) サンプルコンテナ:10千円、分析用消耗品類:100千円、分析用薬品類:100千円、分析装置用ガス等:40千円、論文校閲100千円×2本=200千円 (追加サンプリング) (外国旅費)航空券代:40千円×1人=40千円、滞在費(宿泊、食費):10千円×5日間×3人=150千円、(その他)調査用レンタカー:50千円、サンプル輸送:50千円、岩石薄片作成:5千円×20枚=100千円
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