本申請研究では,様々な脂質膜環境におけるペプチドおよび膜タンパク質の動的構造の解析,膜内安定性,イオン・分子透過性の評価を分子動力学シミュレーションと自由エネルギー計算により評価する.計算対象には代表的な抗菌性ペプチドであるグラミシジンAを用い,数種類の脂質膜における分子シミュレーションと自由エネルギー評価(膜内安定性)から,膜選択性機構に言及した.ペプチド-脂質膜間の相互作用特性の内訳を査察・解析・比較することにより,ペプチドの膜選択性に寄与する相互作用の詳細を解析する.具体的には,膜溶媒である脂質分子のアシル鎖の長さや鎖の不飽和性を変え,グラミシジンAと脂質分子との疎水性相互作用マッチングを系統的に変化させた場合の分子動力学シミュレーションを実行させる.これら膜溶媒環境の違いによる膜タンパク質および脂質分子の動的構造変化の詳細を明らかにする.膜タンパク質の脂質膜内での安定性は溶媒和自由エネルギー計算により評価し,脂質溶媒の種類の違いに対する膜タンパク質の安定性の違いを系統的に評価する. 膜タンパク質の溶媒和自由エネルギーの解析の結果,全体の溶媒和自由エネルギーのうち、3分の1程度のエネルギーは水からの寄与であることが示され,グラミシジンの膜内安定性には水からの寄与も重要であることが示された.また評価された溶媒和自由エネルギーのうち、脂質と水からのエネルギー値には負の相関があることが示された.4種類の膜に対するグラミシジンの溶媒和自由エネルギー計算の結果はDMPC膜への溶媒和自由エネルギーが最もエネルギー値が低く、グラミシジンはDMPC膜内で最も安定である結果を示された.DMPC膜はグラミシジンとのhydrophobic matchingが最も良い膜であり,相性が良い会合構造からグラミシジンと周りの膜や水分子との相互作用のマッチングも良くなっていることが示唆された.
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