研究課題/領域番号 |
23750009
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
山本 晃司 福井大学, 遠赤外領域開発研究センター, 准教授 (70432507)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | テラヘルツ / 分子間相互作用 / 誘電率 |
研究概要 |
本研究課題の目的は,不規則凝縮相における弱い相互作用の動的構造を,テラヘルツ時間領域分光法によって明らかにすることである。弱い相互作用(枝分かれ構造を持つ飽和炭化水素の分子間相互作用、および、CH…O=Cの弱い水素結合)に関する分子間振動のダイナミクスを明らかにするために、本年度行った研究とその成果は、次のとおりである。(1)枝分かれ構造を持つ飽和炭化水素の分子間相互作用:シクロヘキサンのテラヘルツ誘電率虚部のスペクトルは、低波数領域(< 20 cm-1)から吸収が増えていき、約50 cm-1をピークとしたブロードな形状を持つ。ベンゼンのスペクトル形状と似ており、面外運動が起因すると考えられる。シクロヘキサンと同様に7つの炭化水素についても測定を行い分子構造による変化を調べた。その結果、分子構造と誘電応答との相関をもとに、炭化水素を吸収のパターンごとに系統分けすることができた。分枝した炭化水素の吸収量は位置依存することが明らかになった。(2)CH…O=Cの弱い水素結合:DMSO二量体の構造最適化と振動解析を行い、観測可能なスペクトルに寄与する構造の数,予想される吸収の波数を求めた。配座検索ソフトCORNFLEXを用いて2種のモノマーと4種のダイマーを得て,それぞれについてB3LYP法により,基底関数として6-311G++(dpf)を用いて,最適化構造と二量体形成エネルギーを求めた。赤外分光法は,シクロヘキサンを溶媒として,濃度を変化させて測定した。THz-TDSの観測には先端赤外社製福井大学特別バージョンの装置を用いて,領域は5~80cm-1であった。0.01, 0.05 M 溶液についてTHz スペクトルの観測を行い、20~60cm-1に幅広い誘電応答を観測した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度における計画は、次のとおり実施した。(1) 枝分かれ構造を持つ飽和炭化水素の分子間相互作用、および分子間振動ダイナミクスの解明[1]テラヘルツ時間領域分光装置の高周波化(5 ~ 200 cm-1)への改良:より高周波領域の誘電応答スペクトルを測定するために、既存のテラヘルツ時間領域分光装置に、○テラヘルツ波の発生に用いる素子(光伝導スイッチ素子)を、テラヘルツ波の高周波発生に有利な素子に交換(ダイポール型→ストリップライン型)、および、○テラヘルツ波高周波発生素子に印加する交流高電圧電源 (±100~150 V)を導入により、達成した。[2]飽和炭化水素におけるテラヘルツ誘電率の分子構造依存性の実験的解明:高周波数領域に帯域を拡張したテラヘルツ時間領域分光装置を用いて、炭素数が6の飽和炭化水素に対して、のテラヘルツ誘電率スペクトルを測定した。低周波領域(< 50 cm-1)および高周波領域(> 100 cm-1)における誘電応答の分子構造依存性を明らかにし、分子間振動ダイナミクスに関する新たな知見を得た。(2) CH…O=Cの弱い水素結合とそのダイナミクスの解明[3] DMSO二量体の構造最適化と振動解析を行い、観測可能なテラヘルツ境域の分子間振動スペクトルを計算し、それに対応するテラヘルツ誘電応答をの観測に成功した。これらの点から、本研究課題は、順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 枝分かれ構造を持つ飽和炭化水素の分子間相互作用の解明:飽和炭化水素の誘電率スペクトルには、枝分かれ分子構造と相関があることが明らかになった。量子化学計算を行うことで、飽和炭化水素における永久双極子の寄与を考察し、テラヘルツ誘電応答の枝分かれ構造依存性の理解を試みる。(2)CH…O=Cの弱い水素結合とそのダイナミクスの解明:シクロヘキサンに溶解した、ジメチルスルホキシド(DMSO)の分子間で生じるC-H…O=S の分子間振動をテラヘルツ誘電応答で直接観測を行った。今年度は濃度を変化させて,吸収の強度の変化をしらべることで,二量化反応の平衡が濃度にどのように依存するかを明らかにする。ジメチルスルホキシド(DMSO)の溶媒を四塩化炭素にした場合に対して、THz-TDスペクトルの依存性も併せて明らかにする。シクロヘキサンはDMSOの貧溶媒であり,溶解濃度は0.05 M程度までと予想できる.無極性の溶媒である四塩化炭素中での会合の濃度変化も非常に興味深いと考えられる。3量体もまた,かなり安定な構造を形成できる計算結果が得られているので,全濃度領域で溶解する四塩化炭素溶液について,広い濃度範囲で測定を試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
量子化学計算用の計算機として、ワークステーション HPC5000-Z800(HPCシステムズ)(MDシミュレーションン用)1台×40万円を計画している。また、テラヘルツ用恒温液体セル改良費および消耗品に、30万円を見込んでいる。試料代に30万円を見込んでいる。テラヘルツ光学系の保守費用として40万円を見込んでいる。成果発表として、37th IRMMW-THz 2012(2012.9.23-28, University of Wollongong, Australia)に25万円を見込んでいる。そのほかの消耗品に、15万円の見込んでいる。
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