パルス磁場中高速度顕微画像観察装置による,磁場下でのリポソームの変形の観測は,磁場印加のタイミングで対物レンズが振動して像が乱れるので,瞬間の変化の観測に成功していない。ただし,0.1秒以下,振れ幅10um程度の振動まで低減出来ており,近く振れ幅をベシクルのサイズ以下(目標5um)まで低下させられる見込みである。なお,磁場印加前後のベシクル構造には,一部変形の兆候がみられており,振動の問題が解決すれば,その時間経過を直接観測して,磁場下での膜の安定性に言及することが可能となる。 前述のシステムの作成と同時にパルスマグネット中で分光システムの構築も行った。前年度までにパルス磁場中での光反応の発生までは可能となっていたが,本年度は検出システムの改良を行って時間分解光反応の観測が可能なようにした。具体的にはPMT回路の中のブリーダ抵抗をナノ秒レベルの現象に適したものに設計しなおした。フルオレセインとピレンを標準試料とし,数ナノ秒以上の時間領域で時間分解蛍光分光測定ができることを確認した。 前述のように一粒子での観測が未だに難しいため,ベシクル変形測定の別手法として,分光システムを用いてバルクでの時間分解蛍光分光測定にも挑戦している。平成24年度末の時点ではベシクル内部に取り込んだピレン濃度の最適化を行っている。ピレンを光励起すると単量体(モノマー)と励起状態での二量体(エキシマー)の二種類の蛍光を発生する。本課題ではベシクルの変形を,拡散係数の変化によるモノマーとエキシマーの平衡定数の違いより予測することを考えており,目標の達成に向けて最終的なアプローチをしているところである。
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