研究課題/領域番号 |
23750015
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
水野 操 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (10464257)
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キーワード | 共鳴ラマン分光法 / 時間分解分光法 / 古細菌型ロドプシン / タンパク質ダイナミクス / 光異性化 |
研究概要 |
平成24年度は、ピコ秒時間分解紫外共鳴ラマン分光法により、センサリーロドプシンI(SRI)のレチナール発色団の光反応に連動した初期タンパク質構造ダイナミクスについて塩化物イオンの効果を調べた。光反応初期で観測されるタンパク質構造変化の速度は、これまでに研究を行ってきた古細菌型ロドプシンであるバクテリオロドプシン(BR)やセンサリーロドプシンII(SRII)で観測された速度とほぼ同様であることがわかった。また、塩化物イオンの構造変化の速度に対する効果は、ピコ秒領域ではほとんど観測されなかった。 さらに、アナベナセンサリーロドプシン(ASR)についても、時間分解紫外共鳴ラマン分光法によって初期タンパク質構造ダイナミクスを観測した。BR、SRII、およびSRIと同様の時定数で、ピコ秒領域でタンパク質構造が変化することがわかった。この研究成果は、すでに論文としてまとめ、Chemical Physics誌に掲載が決定している。 本研究では、構造変化のプローブとしてタンパク質分子中に含まれているトリプトファン残基のラマンバンドを使用している。スペクトル変化を示したと考えられるトリプトファン残基は、古細菌型ロドプシンの発色団である全トランスレチナール周辺に保存されている。これまでの研究によって得られた結果から、ピコ秒領域で起こる発色団の光異性化にともなうタンパク質構造変化の速度は、種にわたり同様であることが示唆された。 また、新規に発見されたミドルロドプシン(MR)について、安定に存在する暗順応状態および明順応状態のレチナール発色団の構造情報を可視共鳴ラマン分光法により観測した。この研究成果は、論文の構成の一部としてまとめられ、The Journal of Physical Chemistry B誌に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成23年度中に取得した育児休暇のために、若干の研究推進の遅れが出ている。 本年度は、センサリーロドプシンI(SRI)の実験を行うことしかできなかった。 しかし、研究計画時には予定はしていなかったが、古細菌型ロドプシンに含まれるアナベナセンサリーロドプシン(ASR)やミドルロドプシン(MR)について、新たな知見を得ることに成功し、古細菌型ロドプシンの構造ダイナミクス情報を系統的に調べ、機能発現のしくみを探る本研究課題の目標からは逸れておらず、今後も同様に研究を進める方向である。
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今後の研究の推進方策 |
過去2年間の研究において、時間分解共鳴ラマン分光法を用いたタンパク質の構造ダイナミクス観測は、重要な成果を上げていると考えている。このまま、研究計画に沿ってを研究を進める。 また、研究を推進している現在でも次々と新規のタンパク質が発見されているため、時間分解ラマン分光法で得られるデータ以外にも他の分光法を用いた基礎的な分光データの重要性を感じている。このため、平成25年度は、ダイナミクス観測の重要なデータである過渡吸収測定が可能なシステムの構築を同時に推進する予定である。このシステム構築には、高額な装置は既存のものが使用できるため、必要な光学部品等は物品費で購入できる。 時間分解ラマン分光法と過渡吸収分光法を合わせた系統的なデータ解析を行い、ダイナミクス情報から機能発現機構の解明を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
測定にもちいる光学部品(ミラー、ホルダー、非線形光学結晶など)や試薬は、日常的に実験を行う間に劣化・消耗する。これらの定期的な交換・補充を行うため購入する。新たな分光システムを組み立てるための光学部品を購入する。 得られた結果を取りまとめ、国内・国際学会で成果発表を行うための旅費として用いる。
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