研究課題/領域番号 |
23750021
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
藤原 亮正 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (10580334)
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キーワード | イオントラップ / 温度制御 / クラスター / 微小液滴 |
研究概要 |
揺らぎの化学反応に果たす役割を理解することを目的として、生体関連分子を含む帯電液滴の精密温度制御技術を確立し、温度を規定した単一サイズ微小液滴を反応場とする分光計測法の開発を進めた。 温度可変イオントラップをマシニングセンタとワイヤー放電加工によって一体成形型で製作した。継ぎ目がない構造では、(1)冷却・温度制御能力と(2)組み上げ精度、(3)耐振動性が高く、(4)残留ガスが減少し、(5)RFポテンシャル精度が向上する。GM冷凍機のコールドヘッドに直結して、8-350Kまで0.5Kの分解能で温度制御できることを確認した。大気圧下で生成したイオンを超高真空中に効率良く導入するため、7段の差動排気型超高真空真空チャンバーを製作した。イオンガイドを用いた導入部は排気速度が高いオイル回転ポンプとオイル拡散ポンプ(2000 L/s)で排気し、四重極型質量フィルター以降の真空チャンバーは超高真空設計とし、ターボ分子ポンプで排気した。 本計測法から (1)分子間相互作用の精密解析に特化した分子分光法を基盤として、(2)質量分析技術から適応できる系の制限を無くして超高感度化し、(3)イオン光学の応用により、フェムト秒から数十分に及ぶ広い時間スケールでの温度可変光解離分光が可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
自動車用燃料噴射バルブによるパルス超音速ジェットが開発(1979年)されて以来、レーザーと分光法の発展に伴って、サイズを変数とした気相クラスターの研究が広範に展開されている。気相クラスター研究が始まってから30年以上経つが、温度に関する情報は実験的な困難さからほとんど得られておらず、ドイツのグループによる相互作用の強いナトリウムクラスターの融点測定に留まっている。現在でも不特定な温度による異性体分布の違いが議論に大きな混乱を招いており、気相クラスターの温度は制御出来ないという認識さえ生じている。相転移や構造・反応ゆらぎを分子レベルで理解するためには、温度を変数とした気相クラスターの実験的研究が必須である。 本研究では、温度可変イオントラップを熱浴とした気相クラスターイオンの精密温度制御技術を開発している。RFロッドを一体成型し、トラップセルを削り出して製作することで、歪のないポテンシャル中でのバッファーガス冷却を実現し、気相イオンの温度を精密に制御する。また、インピーダンス整合不要のプッシュプル型高出力RF電源を製作し、広範な温度変化とGM冷凍機の振動に対する安定性を飛躍的に向上させた。本研究でのイオン化法と精密温度制御技術は非常に幅広い系に適応できることから、温度を規定した実験的研究が決定的に不足している現状を打破し、分子レベルでの理解を目的とする気相クラスターの実験的・理論的研究に大きな発展を導く基礎技術となる。 本計測法から (1)分子間相互作用の精密解析に特化した分子分光法を基盤として、(2)質量分析技術から適応できる系の制限を無くして超高感度化し、(3)イオン光学の応用により、フェムト秒から数十分に及ぶ広い時間スケールでの温度可変光解離分光が可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
波長可変レーザー分光システムと計測器制御プログラムを開発する。ペプチドとプロトンを含む液滴のサイズ選別比熱・融点測定から、液滴サイズに依存した相転移と水素結合ネットワーク構造の関係を検討し、分子動力学計算との比較から、液滴中でのペプチドの二次構造と水和構造、水素結合ネットワーク構造の関係を分子レベルで明らかにする。融点付近における液滴の構造揺らぎと相転移に伴う、ペプチドの励起状態電子移動/水素原子移動の反応性の変化を紫外光解離分光によって調べ、水和構造との関係を明らかにする。以上の結果を基に、温度とサイズを規定した液滴を反応場として水和ヒドロニウムラジカルH3O(H2O)nを生成し、分光測定から反応特性と反応中間体としての役割を分子レベルで解明する。
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次年度の研究費の使用計画 |
波長可変レーザー分光システムと計測器制御プログラムを開発する。 ペプチドの配列や残基数、液滴の温度、水和構造に依存した二次構造を系統的に調べる目的で、各種ペプチド試薬を購入、合成しながら測定を行う。
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