本研究の目的は次世代の光エレクトロニクス材料として期待されている有機色素ナノ粒子の光電子物性を、分子科学的観点から解明することである。溶液プロセスを用いて作製したポルフィリンナノ粒子の表面に酸化還元活性のあるプローブ分子を導入し、光励起に よって電荷注入を行い、電子移動メカニズムの解明を行う。 前年度までに合成した二種類の水溶性アクセプター分子と水溶性ポルフィリンモノマーとの高効率会合、および電子移動についての詳細な解析を行った。ドナー、アクセプターの置換基効果、溶媒効果の解析から、10の5乗オーダー以上の高効率多段階会合にはクーロン相互作用のみならず、疎水相互作用が大きな寄与を与えていることが明らかとなった。また、高次会合、不均一核生成が溶媒の塩濃度によって制御できることが明らかとなった。本知見はドナー‐アクセプター超分子会合体の形成において有用な知見を与えるものと考えられる。 会合の分子科学的メカニズム解明に時間がかかり、また、水中における配位結合が弱いことが明らかとなったため、当初計画のポルフィリンナノ粒子へのアクセプタープローブ導入は見送らざるを得なかった。しかし、クーロン力および疎水相互作用を用いたナノ粒子の表面修飾の可能性も残されているため、今後検討したい。 これと並行し、前年度から行っている過渡吸収検出磁場効果装置の立ち上げおよび改良を行った。温度コントローラーと循環ポンプを用いた温度可変・循環測定が可能な過渡吸収装置の開発に成功した。また、ナノ粒子懸濁液高感度測定へ向けて新たなレーザーを導入し、キャビティーリングダウン分光へ向けた取り組みも行っている。これら高感度装置を用いて色素ナノ粒子の光物性解明へ向けた研究を今後も遂行する予定である。
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