研究課題/領域番号 |
23750023
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
立花 隆行 東京理科大学, 理学部, 助教 (90449306)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 電子遷移誘起脱離 / 陽電子 / 対消滅 |
研究概要 |
本研究では、固体表面上での陽電子対消滅に誘起されるイオン脱離の現象を観測し、対消滅によって生成される表面の励起・イオン化状態の動的緩和過程を探ることを目的としている。 研究初年度となる本年度では、RI陽電子源を用いた脱離イオン測定装置の設計・製作を中心に進めてきた。陽電子を効率よく輸送するためには、磁場を用いなければならない。そのため、その輸送磁場が脱離イオンの軌道に影響を与えるという測定上の困難があった。さらに本実験では、研究の性質上、脱離イオン種の同定をする必要がある。そこで、脱離イオンの軌道上に幾つかの電極を設置し、静電場と輸送磁場を巧みに利用することにより、飛行時間法によって脱離イオンを質量分別して検出するシステムを開発した。 この装置を用いて、陽電子入射によって二酸化チタン表面から脱離するイオンの観測を試みた。その結果、脱離イオンを観測することに成功し、質量分析の結果から、表面に吸着した分子からイオンが脱離することを突き止めた。さらに、吸着分子種のイオン化エネルギーよりも十分低い入射陽電子エネルギーでイオンが脱離することを確認し、これにより、対消滅によってイオン脱離が生じることを裏付けることが出来た。 本研究で得られた結果から、陽電子と固体との相互作用に関する基礎的研究への実験手法を提案することだけではなく、陽電子を用いた新しい表面分析技術への応用的利用への展開も現実的となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、実験装置の開発とその予備実験を中心に行う予定であったが、計画を前倒して、本年度中に実験を遂行することが出来た。さらに陽電子消滅誘起イオン脱離の観測に成功するという大きな成果上げた。 磁場中における脱離イオンの飛時間測定を可能とすることは困難を極めたが、測定原理から充分に検討を重ねた結果、高感度・高質量分解能の性能を持つ脱離イオン測定装置の開発に成功した。さらに装置完成後におこなった予備実験の結果を基に、陽電子ビームモニターやターゲットアニール機構の製作などの装置改良や、測定システムの効率化を進めた。これにより、本年度中に本格的な実験を開始することを可能にした。得られた実験結果は、陽電子対消滅によってイオン脱離が起こることを裏付ける重要なものであり、これにより、今後の研究を大きく展開させることが可能になった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究が予想以上に進められたことを踏まえて、24年度においては、研究を大きく展開させることを目指す。そのために、本年度に開発した装置を、高エネルギー加速器研究機構の低速陽電子実験施設に移送して実験を行う.2012年度秋のビームタイムに実験装置の設置と測定システムを確認するための予備実験をおこなう。2013年春のビームタイムに本格的な実験を遂行する。 低速陽電子実験施設では、ライナックで生成された、繰り返し50Hz,パルス半値幅5nsのパルス状陽電子ビームを利用することができる。このようなビームは、飛行時間法による脱離イオンを測定する本実験に最適なものである。また、ビーム強度はこれまでの10倍以上となるため,測定の効率が大幅に向上する。但し、陽電子のエネルギー幅は広がっている可能性があることから、陽電子を一度減速材に入射して、エネルギーを単色化する機構を開発する。 陽電子消滅による脱離機構を詳細に調べるためには、古くから研究がおこなわれている電子線照射による脱離現象の機構との比較をする必要がある。そこで、ビームライン上に簡易型の電子銃をとりつけ、直線導入機構を用いて真空を破ることなく、同一の試料で電子と陽電子入射の測定をおこなえるようにする。これにより、脱離収率や脱離イオン種とその強度分布の違いを比較する。 RI陽電子源を用いた測定ではデジタルオシロスコープに信号を取りこんでいたが,カウントレートが大幅に増加することから,PCIベースのデジタイザーを用いた新しい測定システムを開発し、オンライン解析を可能にする。 得られた結果を国内・国外の研究会・学会大会などで研究発表を行い,そこでの議論を踏まえて研究成果をまとめた内容を学術誌に投稿する.
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度におこなった装置製作では、検討を重ねた結果、製作費を大きく抑えつつも、高感度・高分解能である脱離イオン検出装置を完成させることができた。また、別の実験に使用していた測定系の一部を改良して、本実験に流用することで、研究費を抑えることができた。 24年度には、高エネルギー加速器研究機構の低速陽電子実験施設で実験をおこなうことを計画している。既存のビームラインに組み込むために、装置の一部を改造する必要がある。さらに、試料および試料準備用のガス導入システムを製作しなければならい。これらの改造・製作に30万円程度を必要とする。また、信号を高速で取り込むためのPCIデジタイザーを購入する必要がある。制御用のPCを含めて、140万円程度になる。単色陽電子ビーム生成のために準備する減速材には、1500度でアニールするので、高融点材料で製作をする必要がある。そのため、製作には50万円程度かかる。電子銃については自作することで、コストを抑える。 研究費の不足が予想されるが、その分については申請者の学内研究費を割り当てることで対応する。
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