研究課題/領域番号 |
23750025
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
北濱 康孝 関西学院大学, 理工学研究科, 専門技術員 (00342775)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 表面増強ラマン散乱 / 走査型近接場光学顕微鏡 / イメージング / 原子間力顕微鏡 |
研究概要 |
硝酸銀結晶に、原子間力顕微鏡(AFM)の開口カンチレバー(開口径300nm)を接近させて、開口部に波長488nmの励起光を5分間照射し、その前後での結晶表面の原子レベル形状測定を行った。その結果、光強度が強い場合は直径1μmほどの突起が生成した。光強度が弱い場合は直径300nmほどの突起が生成した。また、硝酸銀結晶に色素のアセトン溶液を滴下・乾燥させた直後に通常の光照射でラマン測定を行ったところ、硝酸イオン由来のスペクトルしか測定できなかったが、銀ナノ微粒子生成のための光照射を5分間行った後に測定すると、色素由来のラマンスペクトルが測定できた。この結果は、硝酸銀結晶表面に通常の光還元で銀ナノ微粒子が生成し、そこからの表面増強ラマン散乱(SERS)が測定できたものと考えられる。 これらの結果は、近接場光還元で極少数の銀ナノ微粒子を任意の位置に選択的に作製できた事を示している。また、光強度など照射条件を変える事で異なる形状の銀ナノ微粒子を作製できる事も判った。今後、開口カンチレバーを通してSERSあるいはプラズモン共鳴レイリー散乱を測定する事が出来れば、近接場光還元銀ナノ微粒子の光学的性質と形状がその場同時測定できるという独創性を確立することになる。 このようなAFMとSERSのその場同時測定により、走査型SERSイメージングのための最適条件を探る事ができる。その最適条件下ならば、この近接場光還元を使った単一分子レベル・数nmオーダーの高感度・高空間分解能なイメージングを、従来ではSERS測定できなかった出芽酵母の娘細胞表面のような場所でも、選択的に任意の場所で行えるようになると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初は、銀イオンを含ませたゲルに原子間力顕微鏡(AFM)の開口カンチレバーを接近させて、近接場光還元による銀ナノ微粒子作成を行い、その前後での原子レベルでの形状測定と表面増強ラマン散乱(SERS)測定を行う計画であった。しかし、ゲル中の水分が多いと、乾燥によるゲルの収縮によって、カンチレバーで表面を走査することができなかった。一方、ゲル中の水分が少ないと、銀イオンの拡散が起きにくくなって、光還元による銀ナノ微粒子生成が難しくSERS測定も困難であった。このようにゲルを用いたAFM測定と光還元銀ナノ微粒子によるSERS測定とでは矛盾した条件が必要であり、その最適な測定条件、ゲルの種類や水分量などの探索に時間を費やさざるをえなかった。 体積が変化しないと思われるシリカゲルでの実験も行ったものの、結局はゲルではなく硝酸銀結晶を用いることで、近接場光還元銀ナノ微粒子のAFM測定と通常の光還元銀ナノ微粒子によるSERS測定に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
硝酸銀結晶を用いた近接場光還元銀ナノ微粒子による表面増強ラマン散乱(SERS)測定に取り組む。色素のアセトン溶液を滴下、乾燥させた硝酸銀結晶を用いて、銀ナノ微粒子生成のための光強度などに依存したスペクトルの違いを見いだし、原子間力顕微鏡(AFM)でその場同時測定した形状(異なる光強度によって作製された銀ナノ微粒子は、同じサイズで数が異なるのか、数は同じでそれぞれのサイズが異なるのか、という点などに注目する)との相関を議論して、走査型SERSイメージングのための最適条件を探る。 カンチレバーを取り付けたチューニングフォークを改良して液中でのAFM測定を可能とすることで、固液界面上において開口カンチレバーを用いた近接場光還元銀ナノ微粒子のAFM測定とSERS測定の同時測定を行う事も考えている。この際、銀イオンを含んだイオン液体を用いる。すでに真空中で行う走査型電子顕微鏡による電気化学的還元反応の観測がなされているように、イオン液体では溶液の蒸発がほとんどないので、ゲルで起きたような蒸発による問題は回避され、その場同時測定が容易に行えると考えている。 そして、酵母あるいは乳酸菌を硝酸銀水溶液中に浸した後に、その細胞表面での開口カンチレバーを用いた近接場光還元銀ナノ微粒子のAFM測定とSERS測定の同時測定に取り組み、走査型SERSイメージングを達成する。
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次年度の研究費の使用計画 |
ラマン測定装置を置くための除振台を購入するために、40万円ほど使用する。開口カンチレバーなどの光学素子や試薬の消耗品費に、10万円ほど使用する。東京およびインドにおける国際会議や、東京および関西での国内学会に出席するための旅費に、38万円ほど使用する。謝金などに2万円ほど使用する。
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