研究概要 |
原子間力顕微鏡(AFM)の開口カンチレバーを硝酸銀結晶に接近させ、開口部に波長488nmの励起光を照射することで近接場光還元を行った。その前後で結晶表面のAFMその場測定を行い、銀ナノ微粒子あるいはその二量体の生成を確認した。単独の銀ナノ微粒子を作製した結晶上に4,4'-ビピリジンのアセトン溶液を滴下して通常ラマン測定を行うと、1026cm-1付近にビピリジン金属錯体の環呼吸振動モードのピークが観測された。一方、銀ナノ微粒子二量体の場合、1000cm-1付近に結晶状態ビピリジン分子の環呼吸振動モードのピークが観測された。前者は、ビピリジン分子が金属に吸着して表面増強ラマン散乱(SERS)が発現していると思われる。後者は、近接場光還元で作製した銀ナノ微粒子二量体の間隙に、ビピリジン分子が金属に吸着しない状態で存在し、そこからのSERSが発現していると考えられる。後者には偏光依存性が観測されており、二量体間隙からのSERSであると確認できた。従来の光還元法では単独あるいは多数の銀ナノ微粒子しか作製できなかったが、今回、銀ナノ微粒子を任意の位置に選択的に作製しながら、形状をその場同時測定して確認し、それによるSERSスペクトルの違いを測定できた。 また、単一分子レベルのSERSイメージングで起きる明滅現象についても調べた。アニオン性色素を吸着させた銀ナノコロイド微粒子からのSERS明滅現象を、色素濃度や励起波長を変化させて観測し、その結果を冪乗則で解析した。これにより、励起波長が短いと銀ナノ微粒子二量体の間隙に周期的な増強電磁場が発生し、それがSERS明滅現象に影響している事を確認した。このような周期的な増強電磁場の走査型近接場光学顕微鏡による観測の報告が最近なされており、今回の研究結果はその挙動と一致している事も明らかになった。
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