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2011 年度 実施状況報告書

スピン状態変化を伴う化学反応の理論的経路探索と速度論的解析

研究課題

研究課題/領域番号 23750027
研究機関分子科学研究所

研究代表者

倉重 佑輝  分子科学研究所, 理論・計算分子科学研究領域, 助教 (30510242)

研究期間 (年度) 2011-04-28 – 2013-03-31
キーワード量子化学 / 電子相関 / 多参照理論 / 密度行列繰り込み群 / 光合成系2 / ルシフェラーゼ
研究概要

今年度は始めに,応用計算に必要となる状態平均DMRGとspin-adaptationの開発を行った.本課題は異なるスピン状態間や励起状態・基底状態の交差を含む化学反応を研究対象としており,複数の電子状態を同時に精度良く計算する必要がある.そこで状態間で平均された密度行列をDMRGとCASSCFの両ステップに用いる事で,特定の電子状態にバイアスされない計算を実現した.またスピン状態間の交差が起きる状況ではそれらのエネルギー差が非常に小さくなっており,波動関数がスピン固有関数となるよう制限をかけないと強くspin-contaminationが起こり正しく計算できなくなると予想される.そこでspin-adaptationにより波動関数がスピン固有関数となるよう工夫が必要であった.開発した理論を用いて光合成系IIのMn4Caクラスタのスピン相関関数を計算した.これと実験から得られる磁気共鳴スペクトルを比べることで,Mn4Caの光合成系II内での実際の構造を議論できるようになると考えられる.ここでスピン状態間のエネルギー差は非常に小さく,DMRG-CASSCF法で考慮される静的電子相関だけではなく,電子衝突に起因する動的電子相関の考慮が更に必要になったため,DMRG-CASSCF波動関数を零次とする二次の摂動法DMRG-CASPT2法を開発した.またルシフェラーゼCO2解離反応のエネルギー曲線の計算を行った.エネルギー曲線に用いる座標は先行研究のものを用いた. DMRG-CASSCF法により活性軌道空間を広くとることで先行研究では捕らえられなかった新たな低励起状態を正しく予測することが出来た.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

平成23年度の研究計画は(1)応用計算に必要となる状態平均DMRGとspin-adaptationの開発(2)計算精度を確認するための予備的な計算である.(1)の状態平均DMRG-CASSCFとspin-adaptationについて計画以上に早期に開発を完了した.よって次に計画していた, DMRG-CASSCF波動関数を零次とする二次の摂動法DMRG-CASPT2法を開発した.これによりDMRG-CASSCF法で考慮される静的電子相関に加え,電子衝突に起因する動的電子相関の考慮することが可能となりより定量的な議論が早期に可能になった.(2)についてはマンガンMn4Caクラスタのスピン状態順序の計算から計算精度を確認した.エネルギー差は数十cm-1と非常に小さいがスピン混入を起こすことなく正確に計算することが可能であることを確認した.本年度はこれに加え,ルシフェラーゼCO2解離反応の基底状態と励起状態に対するエネルギー曲線の予測を状態平均DMRG-CASSCF法を用いて行い,先行研究には無かった新たな低励起状態の発見に成功した.よって研究は計画以上に進展していると言える.

今後の研究の推進方策

今後より実際的な反応経路解析を行う上で,一点計算を用いて全自由度に対するエネルギー曲面を計算するのは現実的ではなく,かわりに解析的エネルギー微分から反応に関わる構造変化を効率よく計算することが必要である.そのためのDMRG-CASSCFの解析的微分の開発を行う予定である.これには,ガウス型関数の微分,すなわちより高い角運動量をもつガウス型関数の1・2電子積分が必要になり開発の最も労力を要するところであるが,i型の関数までは開発の見通しが立っており,目的とするCr,Mn,Fe,Cu等の遷移金属に対しては十分と考えられる.また,ルシフェラーゼCO2解離反応の結果から本方法は異なるスピン状態の最低エネルギー状態同士の比較だけではなく,同じスピン状態の基底状態・励起状態の比較も正確に計算することが可能であることが確認されたため,熱反応だけではなく光反応もターゲットとして研究する事を考えている

次年度の研究費の使用計画

DMRG-CASSCF法の解析的エネルギー微分の計算は一点計算に比べて計算負荷が高く,より多くの計算時間とメモリ容量を必要とするため,解析的エネルギー微分の開発が完了し次第,計算機を追加購入し研究を促進する予定である.

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2012 2011 その他

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (3件)

  • [雑誌論文] Optimization of orbital-specific virtuals in local Moller-Plesset perturbation theory2012

    • 著者名/発表者名
      Yuki Kurashige, Jun Yang, Garnet K.-L. Chan, Frederick R. Manby
    • 雑誌名

      The Journal of Chemical Physics

      巻: 136 ページ: 124106-1, 7

    • DOI

      10.1063/1.3696962

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Second-order perturbation theory with a DMRG self-consistent field reference function: Theory and application to the study of chromium dimer2011

    • 著者名/発表者名
      Y. Kurashige, T. Yanai
    • 雑誌名

      The Journal of Chemical Physics

      巻: 135 ページ: 094104-1, 9

    • DOI

      10.1063/1.3629454

    • 査読あり
  • [学会発表] 密度行列繰込み群法を基礎とする高精度多配置波動関数理論の開発と応用:光合成系IIマンガンクラスターの構造と酸化状態の検討

    • 著者名/発表者名
      倉重 佑輝, 柳井 毅
    • 学会等名
      日本化学会第94回春期年会
    • 発表場所
      慶應大学日吉キャンパス(神奈川)
    • 年月日
      2012年3月25日
  • [学会発表] 多核金属錯体の高精度計算に向けたDMRG-CASPT2法の開発

    • 著者名/発表者名
      倉重 佑輝, 柳井 毅
    • 学会等名
      第5回分子科学討論会
    • 発表場所
      札幌コンベンションセンター(北海道)
    • 年月日
      2011年9月21日
  • [学会発表] DMRG-CASPT2 theory for large-scale multi-reference problems

    • 著者名/発表者名
      Yuki Kurashige
    • 学会等名
      European Seminar on Computational Methods in Quantum Chemistry
    • 発表場所
      Drobak, Norway
    • 年月日
      2011年6月18日

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公開日: 2013-07-10  

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