研究課題
X線自由電子レーザー(XFEL)を用いた分子・物質に関する研究は現在急速に進展しつつある新しい分野であるが、XFEL・放射光実験双方で得られる情報や現象の違いを理解することは重要な課題である。本課題代表者はXFELによって初めて生成された新規電子状態(二重内殻イオン化状態:分子の内殻軌道から2つの電子が同時に電離した状態)に関する理論研究を行い、二重内殻イオン化状態の分子種による違い、光電子スペクトルから抜き出せる情報、二重内殻イオン化状態のAuger電子放出・X線発光の仕組みなどを明らかにしてきた。また、XFEL・シンクロトロン放射光での実験グループと共同研究を行い、測定結果の理論的な解釈を行ってきた。これまで行われてきた理論的研究はほとんどの場合、第二周期元素(主にC,N,O)のK殻(1s)に二重空孔が出来る場合に限定されている。しかし、金属錯体・金属タンパク質など第三周期以上の元素を含む重要な分子・物質も多く、より重い元素を含む分子での理論的研究が望まれてきた。そこで、我々は2014年度に第三周期以上の元素を含む分子に関する二重内殻イオン化状態の計算を行い、これまで扱ってきた第二周期元素のみを含む分子との違い、スピン軌道相互作用の効果などを明らかにした。また、X線による光電離・光解離過程に関連する課題として、 HeH+イオンに電子が衝突した際に起きる解離性再結合過程の反応断面積計算に関する理論的研究も行った。
2: おおむね順調に進展している
今年度は本課題代表者が研究機関を移動した。このため、前所属研究機関を前提として設定していたエフォート率が当初研究計画よりも大幅に減少している。本研究課題に割くことのできる時間が少なくなったため、計画の進行度合いは予想していたよりも多少遅れている。しかし、本課題開始年度・次年度での進行度合いが大きかったために、全体としては概ね計画に近い達成度であると考えている。
研究機関移動によるエフォート率の減少を補うために、本課題の補助事業期間を1年延長して認められた。この期間を利用し、当初計画に関連する研究課題、特に核・電子ダイナミクスに関係する方向での研究を進める予定である。また、より重い元素を含む系への拡張を進めて行く計画である。
研究代表者(申請者)は本課題最終年度の2014年4月に所属研究機関を移動した(自然科学研究機構・分子科学研究所→理化学研究所・計算科学研究機構)。それに伴い、本課題に振り向けることのできるエフォートが以前の50%から5%と大幅に減少している。2014年度は現所属機関での主業務に忙しく、成果発表(旅費等)・計算機購入などに充てる予定であった研究費を使用することができなかった。
2014年度で現所属機関での主業務には習熟してきたため、次年度には当初計画の予定通りに追加計算・成果発表などを行うことが可能であると考えている。また、現在の主業務(量子化学プログラム作成)と本研究課題を関連させて進める目処も立った。したがって、内殻過程における大規模量子化学計算の結果を手元でデータ処理するための計算機や、成果を国内・海外での学会で発表するための旅費に未使用助成金を使用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
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