本研究では、真空と電解質溶液を隔てる隔壁、X線・光電子を透過する窓、電気化学反応用電極として軽元素の超薄膜を利用した環境セルを開発し、固液界面での電気化学反応をその場で分析することが可能なX線光電子分光(XPS)の実現を目指している。万一、真空と電解質溶液を隔てる薄膜が破壊されると、測定室で急激な真空悪化が起こり、放電によりアナライザーが深刻なダメージを受ける恐れがある。そこで初年度は、薄膜破壊時の装置へのダメージを最低限にとどめるマイクロ型セルを開発した。今年度は、実際にこのセルを用いて電気化学反応のその場観察実験を行った。 実証1.マイクロ型セルに水を封入し薄膜電極に正電位を印加する事によって、水/薄膜界面での薄膜の電気化学的酸化膜成長が観察された。光電子のエネルギー、薄膜および酸化膜における元素密度などから、さまざまな電位・時間における酸化膜の厚さ変化をサブナノメートルスケールで決定することに成功した(論文投稿中)。 実証2.薄膜電極の裏面に析出する元素を薄膜を通して観察できることを実証するため、薄膜電極に金属を電解析出させ、析出金属からの光電子強度が増加する様子を観察した。このとき、金属析出は比較的早い段階で頭打ちとなってしまった。これは小型のセルを利用しているため、内包される反応物の量が限られているためではないかと考えられる。現在、より広範な電極反応への応用を目指して、薄膜電極の材料探索・改良、セルのスケールアップ、測定ジオメトリの最適化を進めている。
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