研究概要 |
申請者らは過去の研究において、水と有機溶媒からなる2成分混合溶液にNaBPh4のような拮抗的なイオン(親水性の陽イオンと疎水性の陰イオン)からなる塩を加えることで、多重膜ベシクルなどの階層構造が自発的に形成されることを見出している(KS, 2009)。この知見に基づき、本研究では、水/有機溶媒/拮抗的塩の混合溶液系で誘起される秩序構造の一般性や熱力学的な起源を明らかにすることを目的とした。その中で、2012年度は下記の3つの成果を得た。(1) 水と3-メチルピリジンの混合系中に疎水性の陽イオンと親水性の陰イオンからなる塩であるPPh4Clを加えることで、NaBPh4の場合と同様のナノ構造が形成される、という結果が中性子散乱により明らかになった。この結果と考察を交えて、論文として発表した(K. Sadakane, et al., Chem. Lett., 41, 1075 (2012))。(2) 前年度までに水/3-メチルピリジン/NaBPh4混合系で形成されるナノ構造を中性子散乱で調べていたのだが、この秩序構造を説明するための自由エネルギーモデルを構築した。これによると、水/3-メチルピリジン/NaBPh4混合系では、膜の表面に分布するNa+が誘起する長距離の静電斥力と膜内のBPh4-イオンの分布に起因する浸透圧効果が拮抗することで、秩序が安定化されていることが示唆された (K. Sadakane, et al., J. Chem. Phys., submitting)。(3) 水/3-メチルピリジン/NaBPh4混合系で形成されるナノ構造にずり流動場を加えることで、溶液中に高分子ゲルのようなヒモ状構造が形成されることを顕微鏡観察により確認した。更に中性子散乱実験により、このヒモ状構造の詳細を明らかにした。得られた結果の一部を、物理学会(2012年秋季大会)などで発表した。
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