本研究は、配位金属に対し「周縁立体効果」をもたらすような、キャビティ構造を有するジアルキルアリールホスフィンを開発し、それらを遷移金属触媒反応における配位子として活用することを目的としている。前年度において、キャビティ構築の基本骨格としてメタフェニレンデンドリマー骨格を有し、デンドリマーの世代および末端芳香環上の置換基の異なる種々のキャビティ型ホスフィンを合成・単離することに成功した。今年度は、パラジウム触媒鈴木―宮浦カップリングをモデル反応として、これらキャビティ型ホスフィンが触媒活性に与える影響について精査した。4-ブロモアニソールとフェニルボロン酸を基質とした場合、いずれの配位子も場合も反応が進行したが、キャビティサイズにより触媒活性に大きな差が見られた。すなわち、小さなキャビティをもつホスフィンの方がより高い触媒活性を示すことが明らかとなった。一方、基質を4-クロロアニソールとしてカップリング反応を行うと同条件下では反応は全く進行せず、触媒が失活しパラジウム黒の生成が見られるとともに、ボロン酸の加水分解が顕著に見られた。そこで種々検討を行ったところ、補助配位子としてピリジン誘導体を添加すると、触媒の失活が抑制されるとともに目的のカップリング生成物が得られることが明らかとなった。ピリジンを補助配位子として用いる条件においては、キャビティサイズが小さくかつ周縁部にかさ高いアルキル基をもつホスフィンが最も高い活性を示した。以上まとめると、キャビティ型ジアルキルアリールホスフィンを配位子として用いた場合、1)キャビティサイズが小さい方が高い触媒活性示す、2)周縁部アルキル基も触媒活性に影響を与える、3)配位性化合物の影響を受けやすい、という傾向があることを明らかとした。
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