研究課題/領域番号 |
23750037
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
田山 英治 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (90372474)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 不斉合成 / 転位反応 / 有機触媒 / 光学活性 / アミノ酸 / 四級アンモニウム塩 / 包接 |
研究概要 |
カリックスアレーン骨格を基盤とする光学活性大環状化合物、すなわち光学活性カリックスアレーンを合成し、これを有機触媒として用いた四級アンモニウム塩の触媒的不斉転位反応を行うことで、光学活性非天然型アミノ酸の新規合成法開発を試みた。基質となるアミノ酸エステル由来四級アンモニウム塩に光学活性カリックスアレーンを包接させ、四級アンモニウム塩の周辺に不斉場を構築する。塩基を加えることでアンモニウムイリドを発生し、包接により構築された不斉場を利用して触媒的不斉転位反応を実現するという計画である。過去の文献を参考にカリックス[4]アレーンを調製し、光学活性ビナフチル基を導入するための手がかりとして、テトラブロモカリックス[4]アレーンと、ジブロモカリックス[4]アレーンを合成した。続いて既知手法によりボロン酸部位を有する光学活性ビナフトール誘導体を調製し、鈴木-宮浦カップリング反応により光学活性ビナフチル基の導入を試みた。テトラブロモカリックス[4]アレーンに対し、4つの光学活性ビナフチル基を導入する試みは失敗した。単純なフェニルボロン酸を用いた反応では、予想どおり4つのフェニル基が導入できたことから、より大きい置換基であるビナフチル基は、立体障害のため4つ導入することが困難であると考えられる。一方、ジブロモカリックス[4]アレーンからの合成は巧く進行し、2つの光学活性ビナフチル基を有するカリックス[4]アレーンを得ることに成功した。得られた光学活性カリックス[4]アレーンを用い、四級アンモニウム塩の触媒的不斉転位反応を試みた。満足できるエナンチオ選択性の獲得には至っておらず、今後も触媒構造の検討が必要である。一方、四級アンモニウム塩の触媒的不斉転位が実現したならば、生成物に残る窒素上置換基を容易に取り外せることが望ましい。この課題を解決する新たな手法の開発に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画では、平成23年度の主たる目的は光学活性カリックス[4]アレーンの合成法を確立し、不斉転位反応の検討が開始できれば充分と考えていた。研究実績の概要にあるように、光学活性カリックス[4]アレーンの合成には成功し、それを光学活性有機触媒として用いたアミノ酸由来四級アンモニウム塩の転位反応について検討を開始したので、当初の目的は達成したと考えられる。しかしながら、生成物を満足できる光学純度で得るには至らず、更なる実験検討が必要であり、この点について達成度がやや遅れていると思われる。一方、やや本筋から離れるが、四級アンモニウム塩の触媒的不斉転位が実現したならば、生成物に残る窒素上置換基を容易に取り外す手法の開発が必要となる。この要求を満たす新規手法の開発に成功したこともあり、研究全体としてはおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に合成した光学活性カリックス[4]アレーンを用いた不斉転位反応の結果を踏まえ、更なるエナンチオ選択性の向上を目的とした新規光学活性カリックス[4]アレーンのデザイン検討と合成を続ける。得られた光学活性カリックス[4]アレーンを有機触媒として用い、引き続きアミノ酸由来四級アンモニウム塩の触媒的不斉転位反応、具体的にはSommelet-Hauser転位やStevens転位を試みる。基質として使用するアミノ酸由来の四級アンモニウム塩は若干分子サイズが大きいことを考慮し、より大きなボウル状分子となるキラルカリックス[6]アレーン、あるいはキラルカリックス[8]アレーンのデザインと合成も試みる。如何なる構造を有する光学活性カリックスアレーンが、アミノ酸由来四級アンモニウム塩の不斉転位反応に有効であるか明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初計画ではリサイクル分取HPLC装置を導入することで、目的とするキラルカリックス[n]アレーンを効率良く精製し、純度良く得ることを計画していた。本研究を開始後、研究代表者の協力研究者が前述の装置を導入し、その装置の使用許可を得ることができたため、当該装置の導入を見送り、研究推進に必要な他の物品の導入を優先した。結果的に導入しなかったリサイクル分取HPLC装置は高額であることもあり、他の物品を導入しても次年度に使用する研究費が生じることになった。平成24年度は、申請計画で計上していた消耗品費額(合成用試薬・溶媒・精製用シリカゲルなど)に対し、交付予定額(平成24年度分)が少ないため、この差を埋める研究費として使用する。
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