研究課題/領域番号 |
23750038
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
瀬川 泰知 名古屋大学, 物質科学国際研究センター, 助教 (60570794)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | カルベン / ピリジリデン / 金錯体 / X線結晶構造解析 |
研究概要 |
これまでにない新しい結合、新しい価数、新しい配位形式などをもつ「新規化学種」の創製は、原子や結合そのものの理解を深め同時にこれまでにない応用が広がるために、合成化学に新たな可能性をもたらす。一重項安定カルベンであるNヘテロ環カルベン(NHC)はArduengoらによって単離されて以降様々な分野に応用され合成化学に大きく貢献している化学種である。NHCは遷移金属錯体の配位子として用いた場合、他の中性単座配位子より高い電子供与性をもち、また解離速度が遅く錯体を安定化することから、多くの遷移金属触媒反応において高い触媒活性を実現している。カルベンの安定化には2つのヘテロ原子(窒素原子など)が必要であると考えられてきたが、Bertrandらは嵩高い置換基を用いて速度論的に安定化することにより、片側にのみ窒素原子を有するNHCの単離に成功している。これらの中には水素分子やアンモニアを開裂させるなど他の有機分子では見られない特異な反応性を示す分子が報告されており、稀少な遷移金属の代替として、並びに全く新しい反応剤としての応用が期待されている。申請者はこれらの背景をもとに、ピリジン骨格を有するカルベン種:ピリジリデンの合成・単離および反応性の解明を目的として研究を行った。初年度において、嵩高い置換基を導入したピリジニウムと塩基との反応によるピリジリデンの発生が可能であることを明らかにした。ピリジニウムは硫黄や金錯体といった捕捉剤によって確認できたが、分子内環化反応や二量化反応が進行してしまうため、単離を成功させるためにはさらなる安定化が要求されることが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請者らは初年度において、嵩高い置換基を導入したピリジニウムと塩基との反応によるピリジリデンの発生が可能であることを明らかにした。これは非常に先駆的な知見であり、これに関して2件の学会発表、1件の招待講演を行なっている。学会発表においては優秀ポスター賞を受賞した。さらにこれらの成果を学術論文にまとめ国際的な論文誌に投稿した。以上より、初年度の研究成果として当初の予想以上が得られた。
|
今後の研究の推進方策 |
現在すでに発生が確認されているピリジリデンを単離し、NMR・X線結晶構造解析・ESRといった物性測定および量子化学計算による物性予測を併用することで、化学種としての性質を解明する。また、ピリダジン・ピラジン・キノリン・イソキノリン・キノキサリン・フタラジンといった他の含窒素複素芳香環カルベンへと展開する。対応するカルベン種はピリジリデンと同程度の安定性をもつと予測されており、同様に適切な嵩高い置換基によって保護し速度論的に安定化することによって発生・単離することができると期待する。これらは発生が確認された後は後述の反応性調査および錯体合成へ同様に応用する。ベンゼン環と複素環の縮環化合物においては、複素環部分の芳香族性が単環のものより弱いためピリジリデンとは違った特異な反応性をもつ可能性があり、非常に興味深い。
|
次年度の研究費の使用計画 |
今年度の成果をふまえ、次年度はさらに包括的にピリジリデンおよびその類縁体についての性質を調査する。有機試薬、溶媒、各種測定機器の使用料に加え、論文発表や国際会議への参加費へ使用する予定である。
|