研究課題/領域番号 |
23750038
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
瀬川 泰知 名古屋大学, 物質科学国際研究センター, 助教 (60570794)
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キーワード | カルベン / ピリジリデン |
研究概要 |
当該年度においては、新規配位子合成およびその錯形成挙動を詳細に調査した。本研究課題において中心的な役割をもつ配位子「ピリジリデン」について、後周期遷移金属への単座配位および2座配位を自在に行う方法論を確立した。 具体的には以下の2点について顕著な成果があった。 まず、嵩高い置換基によって覆われたピリジニウム塩を合成した。これに対し強塩基を用いることでフリーのピリジリデンが発生した。フリーのピリジリデンの観測には成功しなかったが、発生させた後に金と反応させることで、単座ピリジリデン金錯体を効率よく生成することを明らかにした。これはフリーのピリジリデンの発生を明確に示唆する結果であり、同時に種々の単座ピリジリデン錯体を簡便に合成する汎用的な手法を初めて提案したといえる。金錯体の他に、硫黄による捕捉実験や、ピリジリデンを経由した閉環反応の観測にも成功している。 さらに、炭素塩素結合の酸化的付加反応と続く分子内炭素水素結合開裂反応を用いて、2座ピリジリデンパラジウム錯体を世界で初めて合成することに成功した。2座のビスカルベン配位子は多数報告されているが、パラジウムとの間に5員環を形成するものは非常に少ない。2座ピリジリデンは最も安定かつ強固に配位する2座配位子として、これまでにない高活性触媒の生成を実現するツールとなりうる。 これらの研究成果はそれぞれ論文発表するに至っている。ピリジリデンは非常に単純な構造にもかかわらずこれまで十分に研究がなされなかった配位子であり、その高い電子供与性と安定性から、多岐に渡る均一系触媒反応への応用が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度においては、2件の論文発表と3件の学会発表(口頭1件、ポスター2件)を行なった。顕著な研究成果として、フリーピリジリデンの発生および捕捉、2座ピリジリデン配位子前駆体の合成およびパラジウムへの錯形成があげられる。これらは当初の研究計画に沿った十分な成果である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度が最終年度である。本研究の中核であるピリジリデンに関する基礎的な知見はすでに十分得られているため、これをツールとした遷移金属触媒反応の開発に焦点を絞って研究を遂行する。具体的には、4価のパラジウムや5価のイリジウムといった不安定高原子価金属がピリジリデンによって安定化されると期待されるため、これらの化学種を経由した炭素水素結合活性化反応が有望であると期待している。ベンゼン環やアルキル基の炭素水素結合部位を高選択的かつ高活性で官能基化できれば、合成化学における寄与は計り知れない。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究遂行に必要な、有機溶媒、有機合成試薬、遷移金属試薬を購入する。また、名古屋大学物質科学国際研究センターにて共通機器として使用できる各種測定装置(NMR、X線結晶構造解析装置、各種質量分析装置、元素分析、分光分析装置)の使用料金および依頼分析料金を支払う。論文投稿に必要な英文校閲、別刷り費、さらに研究成果の発表のための国内・国際学会参加費および旅費が必要である。次年度は最終年度であり、研究成果は十分得られているため、多くの学会発表を行う予定である。
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