研究概要 |
ヘキサチオペンタセンは半導体材料として研究されているが、置換基が導入されたヘキサチオペンタセンに関する報告例はない。これは、前駆体となるペンタセン誘導体の多くが、反応活性な中央の環の6,13位に官能基を導入したものが多いためである。我々は、最近、我々が報告した長軸方向のみに官能基を導入したペンタセン誘導体と単体硫黄との反応により、2,9位、および2,3,9,10位に置換基を導入したヘキサチオペンタセン誘導体の合成を行い、その性質や分子集合状態に関して詳細に検討を行った。 2,9位に3,5-ジメトキシベンジルエステルを導入した2,9-ビス(3,5-ジメトキシベンジルオキシカルボニル)-ペンタセン (1) と単体硫黄を1,2,4–トリクロロベンゼン中で加熱還流したところ、ヘキサチオペンタセン 2 を緑色固体として収率67%で得た。ヘキサチオペンタセン誘導体の電気化学的特性をサイクリックボルタンメトリーを用いて調べたところ、還元側にアニオンラジカルとジアニオンに由来する2つの可逆な還元波が得られた。第一還元電位から得られるLUMOの値は-3.73 eVであり、このことからヘキサチオペンタセンはn型半導体として動作することが期待される。 2は、偏光顕微鏡観察によって偏光が観察され、粉末X線解析の結果、スメクチック相を持つことが明らかとなった。また、2,3,9,10位に3,5-ジメトキシベンジルエステルを導入した4置換型のヘキサチオペンタセン 3 は、1,2-ジクロロベンゼン中でオルガノゲルを形成することがあきらかとなった。キセロゲルのSEM観察の結果、ゲルが繊維構造を有していることが分かった。また、示差走査熱量測定測定より相転移温度は234.8度であり、熱安定性の高いゲルを形成していることが明らかとなった。
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