研究課題/領域番号 |
23750045
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
高瀬 雅祥 首都大学東京, 理工学研究科, 助教 (90516121)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | π電子共役系 / ピロール / シクロファン / ドナー・アクセプター |
研究概要 |
π電子の偏りに由来した「分極」構造を有するπ電子共役系分子は、電荷移動相互作用に基づく長波長領域の吸収や高い非線形光学特性、色素増感太陽電池等への応用から、機能性材料の根幹を担う重要な化合物群である。そこで本研究課題では、1)二次元的な局所的分極が期待されるピロール環ならびにベンゼン環をディスク状に縮環させた巨大π電子共役系化合物の開発、ならびに、2)三次元的な分極構造への展望が期待されるドナー・アクセプター電荷分離型の新規シクロファン骨格の開発に取り組んでいる。前者の系においては、2つの異なる芳香環を数や対称性を変えて導入した一連の化合物の合成に成功し、そのいくつかの化合物においては結晶構造も明らかにしている(論文投稿準備中)。さらに、一連の化合物は中性や酸化状態で全く異なる性質の電子状態を有しており、またそれらの多段階目の酸化の起こりやすさが、π電子系の共役に大きく依存していることが分かっている。一方、電荷分離型のシクロファンに関しては、オルトジピロリルベンゼンとヘキサフルオロベンゼンとの芳香族求核置換反応を行うことで、低収率ながらも[2+2]型のシクロファン骨格を得ることに成功した。その構造的な特徴に関しては結晶構造解析や温度可変NMRなどを用いて明らかにしている。さらに、続く高圧水銀等を用いた光反応によりナフトビピロール環を形成することで、期待する電荷分離型のシクロファンを得ることに成功した(論文投稿準備中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
局所的な分極構造を有する巨大π電子共役系化合物の開発に関しては、これまでに例のない「異なる芳香環同士の縮環を如何に効率良く進行させるか」が鍵であったが、ピロール環とジアルコキシベンゼン環からなる種々の巨大π共役系化合物の効率的な合成を見出した点で非常に大きな成果を挙げることが出来たと考えている。一方、電荷分離型のシクロファンに関しても、従来のシクロファン骨格形成に用いられていないユニークな合成手法を見出し、各種基礎物性評価により、分子内の分極構造やシクロファン化に伴う特徴的な物性発現の観測に成功している。以上のことから、おおむね二年間の研究計画に沿った研究の進展が得られていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究で、ピロールのみだけでなくジアルコキシベンゼンを導入したディスク状π電子共役系化合物の合成法を確立することが出来た。しかしながら、これまでに得られている化合物の基礎物性評価から、分子内にはそれほど大きな分極構造を有していないことが明らかになりつつある。そこで今後の研究方針としては、アルコキシル基中のアルキル基の脱離によるアクセプター性の向上を検討する予定である。一方、電荷分離型シクロファンに関しては、鍵反応における低収率が研究の推進を妨げているため、用いる反応条件の検討、ならびに導入するアクセプタ-ユニットの再検討を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度に引き続き、有機合成実験に必要な物品費として主に使用する。さらに、合成が完了した化合物に関する特徴を詳細に調べるため、国内外の専門家との共同研究によりその物性評価も行う予定である。そのため国内外旅費としても昨年度以上の予算の計上を計画している。
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