研究課題/領域番号 |
23750049
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
遠藤 恆平 金沢大学, 物質化学系, 准教授 (70454064)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 原子集導体 / クラスター / 協同作用 / 複核金属錯体 / 分子触媒 |
研究概要 |
原子同士の協同作用を指向した原子集合体,クラスターの機能開発が本研究の目的である.従来からクラスターは構造的興味のもとで研究されているが独特の機能を発現し従来法を凌駕した報告例は少ない.本研究では,原子同士の軌道相互作用や,原子の集合により生まれる新しい触媒機能の開発に取り組んでいる.1)ジボリルメタン2つのホウ素原子が1つの炭素原子に置換したジボリルメタンは,ホウ素原子同士の特異な軌道相互作用を示し,従来には見られなかった機能を発現する.その機能を活かした反応として我々は,ジボリルメタンを用いる鈴木宮浦クロスカップリング反応が,適切な添加剤を用いることで室温条件下,sp3-炭素原子上で円滑に進行し化学選択的に生成物を与えることを見出し報告した(Org. Lett. 2011, 13, 3368).さらに関連研究として,従来ではカップリングが進行しづらいとされてきた,ハロゲン化アリル化合物やハロゲン化ベンジル化合物とのクロスカップリング反応がジボリルメタンを用いることで室温条件でも円滑に進行することを見出し現在論文投稿中である.また,ジボリルメタン誘導体を用いることで,報告例の少ない立体選択的な4置換型アリルシラン誘導体の合成にも成功した(Chem. Lett. 2011, 40, 1440).2)複核金属錯体複数の異なる金属原子を集積化させた光学活性な触媒開発を進めている.独自の金属原子集合クラスター設計に基づき,その構成単位である配位子の位置異性体を用いることで,有機亜鉛試薬の不斉共役付加反応の立体選択性が,触媒に含まれる結合様式の位置関係の違いだけで,逆転することを見出し,2012年度に入って報告した(Org. Lett. ASAP. DOI: 10.1021/ol300748d).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目的に従い研究は進んでいるが,年度途中で研究拠点を異動した影響により研究が一時停止に陥った.そのため,二ヶ月程度の遅れが発生しているがデータ収集の都合上,主に論文投稿作業の滞りにつながっている.現時点で近々投稿予定の論文は以下の通りである:(1)複核銅/アルミニウム錯体触媒を用いる有機アルミニウム試薬の不斉共役付加反応による世界初の4級不斉炭素構築法,(2)改良型の複核銅/アルミニウム錯体触媒を用いる有機アルミニウム試薬の不斉共役付加反応による効率的3級不斉炭素構築法,(4)ビナフチルジアミン骨格を基盤とする新規配位子由来の複核銅/亜鉛錯体触媒を用いる有機亜鉛試薬の不斉共役付加反応,(5)ジボリルメタンを用いるハロゲン化アリル,ハロゲン化ベンジルとの室温クロスカップリング反応,(6)ジボリルメタンを用いるワンポット連続的クロスカップリング反応による非対称型ジアリールメタンの合成.以上のように,これまでに見出している独自戦略に基づいた新規触媒反応制御法という点では順調に成果が上がりつつある.さらに従来法では達成されていない(報告例のない)触媒反応の開発に向けて研究に取り組んでいる.一方で,金属原子集積化法として,我々が既に見出している手法ではなく,新しい手法の開発に対して実験的検証が若干遅れているため,新研究拠点において設備等の立ち上げを加速させ研究を進めたい.
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今後の研究の推進方策 |
他研究者の研究戦略では達成不可能な成果を独自戦略から打ち出していくことが重要と考えている.まずは現行で既に見出している設計戦略から一層の個性を引き出す研究を発展させる.特に複核銅/アルミニウム錯体触媒は従来法により設計された触媒には見られない独特の触媒機能を発現することから,今年度に投稿する論文の関連研究を伸ばしていく.また,ジボリルメタン誘導体を用いるカップリング反応について,さらなるステップとして,立体選択的なカップリング反応への展開を予定している.関連研究として,より官能基化したジボリルメタン誘導体を用いることで,合成中間体として有用と考えられる"ボリルメチル化"の潜在性を引き出す.さらに,平成24年度にて本研究課題が終了するが,発展的研究に向けた新しい基盤作りも必要である.平成23年度の研究については既に幾つかの芽が出ているため,次年度の研究期間中に成果報告できるよう努める.同時に,さらに長期的研究発展を見越した,まったく新しい原子集積化戦略についての基礎研究に取り組む予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
主に5万円程度以下の有機合成用の試薬の経費,また専用のガラス器具購入費として使用予定である.次年度使用額が発生しているが,異動による実験室立ち上げに伴い,平成24年度の実際の研究開始により消耗品の追加購入が見込まれたため,前年度研究費の一部を繰り越している.繰り越し金については,平成24年度研究経費と合わせ,実験設備立ち上げに使用する.設備の充足化を図るため,30万円程度の合成装置等の購入も考えている.
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