らせん型分子は、ねじれた分子骨格に基づく特異な不斉環境を与えるユニットとして研究されてきた。らせん型錯体の不斉な環境やそれに基づく物性・機能は、ヘリシティーによって決定されるため、ヘリシティーを自在に逆転させられる系を構築すれば、自在な不斉機能スイッチングを実現できることになる。本研究では、外部刺激応答部位の構造変化をらせん部分に伝達させる新たな機構を開発し、「戦略的に」ヘリシティーを反転させられるシステムの開発を行うこととした。 前年度までに、ヘリシティー反転が可能な金属錯体として、二つのクラウンエーテル部位を導入した一重らせん型錯体を合成し、各種鎖長のジアンモニウム塩を認識させることによるヘリシティーの反転を実現した。本年度はこのらせん型錯体について、金属イオンを使って変換部位のanti/guacheを変換し、これによるヘリシティー反転を試みた。クラウンエーテル部に小さいアルカリ金属イオンを包接させたときには静電反発によりanti型、大きい金属イオンを包接させたときにはサンドイッチ型錯体の形成によりgauche型になると予想したが、実際にはいずれのサイズのアルカリ金属イオンを認識した場合にもguache型となり、金属イオンを使ったヘリシティー反転は起こらなかった。効果的なヘリシティー反転のためには有機ジアミンが最適であることが確かめられた。一方、有機骨格に不斉部位として2-ヒドロキシプロピル基を導入した配位子をらせん型錯体とし、その主骨格に含まれる金属イオンの入れ替え反応を行ったところ、効果的なヘリシティー反転が観測された。この金属イオンの入れ替えは、結合サイトへの金属イオンの親和性に応じて多段階で行うことができ、それに応答した多段階ヘリシティー反転を初めて実現できた。
|