研究概要 |
本研究課題では、究極的な分子サイズメモリの候補であり、量子効果の観点からも興味の持たれている「単分子磁石」について、引き続き系統的な化学修飾による化合物群の開発とその物性評価・化学的傾向の理解を進めている。 これまでに、類似の構造を有する4f-3d系三核錯体[DyMDy] (M = Pd, Cu, Ni)で中心の遷移金属イオンのスピン数が大きくなるにつれ単分子磁石性能が向上することを明らかにしている。本年は、このシリーズで最も性能の良い[DyNiDy]錯体に着目して、ニッケル(II)イオンの磁気異方性を変化させた錯体を合成し、ランタノイド―遷移金属イオン間交換相互作用とゼロ磁場分裂定数D (およびE)を調査した。具体的にはNiのアキシャル配位子をピリジンからメチルイミダゾールに替えた物質の合成に成功し、その磁気挙動および高磁場高周波数電子スピン共鳴測定を行った。交換相互作用はほぼ0の値を取り、ゼロ磁場分裂定数はピリジン体より大きな値(+4.3 K)を取った。ゼロ磁場での磁化緩和はピリジン体よりも抑えられ、ブロッキング温度は3.0 Kと見積られた。詳細な結晶構造解析から、Dy周りの配位環境がバタフライ型に歪んだ捩れ四角柱構造を有していることが分かり、これが単分子磁石性能の向上につながったと考えられる。 この他にも[LnNiLn] (Ln = Gd, Tb, Dy, Ho)の化合物で、4f-3d間交換相互作用のランタノイド依存性を明らかにし、Dy体での異常性について詳細を解明しつつあり、近く論文として報告する予定である。 光異性化基の導入は途上であり、次年度で引き続き検討が必要である。
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