研究課題/領域番号 |
23750058
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
久米 晶子 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (30431894)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | クラスター錯体 / 電気化学 / 発光 / 内包性 / キュバン型 |
研究概要 |
銅-ハロゲン化物クラスター錯体は発光特性や、クラスター構造内部の電子の非局在性に由来する従来にない光物性を示すことが期待できる。一方で、銅-ハロゲン、銅-配位子間の結合が弱いためにクラスター構造は容易に再構成し、個々の分子ユニットとして用いることは困難であり、また電子移動に対して化学的に安定でないという欠点がある。本課題では銅ハロゲンキュバン型クラスターを周縁の配位子で構造的に内包し、光電子機能を引き出すことを目的とした。 まず、中心のCuX4L4キュバン型骨格を安定化させるためには、4つの配位子L同士が3回対称性を持ち他の配位子と相互作用することが有効と考えた。そこでリン配位子PR3のR部分の芳香環を拡張し、互いにπスタックさせることで全ての面を等価に被覆し、内部のクラスターに合致した密な空間を構成することを試みた。 R=PhおよびR=1-naphthylの配位子を用いて同様の調製法で得られたサンプルの電気化学測定を行うと、R=Phでは酸化波がブロードになり、また比率の異なる多重波が観測された。一方芳香環を拡張したR=Naphでは、明確に分離した2つの酸化波が観測された。芳香環同士の相互作用によって内部の銅を含むユニットをサポートすることで、電子移動に対する大きな構造変換の抑制と、金属核同士の電荷反発が大きくなっていることが推測できる。 また、同濃度の溶液試料を比較すると、R=Phでは発光が見られないが、R=1-naphthylでは黄色発光を示す。これは1-Naph基自体の蛍光よりも長波長にあるため、CuXクラスター骨格からの発光と考えられる。1-Naphにおける特異的な発光は、溶液中に存在するクラスター骨格への構造的な影響の他に、UV吸収を持つNaph基のアンテナ効果の寄与が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
被覆基として3回対称の伸張した芳香環が有効であり、クラスターの電子移動特性を調節できる手掛かりを得ているが、一方でこの芳香環は、クラスターユニット同士でも相互作用できるため、現在得られている分子構造はきわめて溶解性が悪い。したがって同定や測定の条件検討が極めて限られている。従って、研究計画の次の段階である、現在の配位子のさらに外側に外部環境との相互作用を決める置換基を入れることで、逆に芳香族による被覆の効果の基礎的な知見が得られると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
配位子の内部の骨格は3回対称で、配位子間の相互作用を持つものが有効と考えられる。現在サンプルの可溶化が最優先課題であるので、PNaph3をベースに合成的に修飾した新規配位子を合成する。また、この基本骨格の酸化還元特性から、酸化電位が比較的低く、準可逆でというデータが得られているため、酸化体の単離を試みる。単離および構造同定によって1電子酸化体においてクラスター骨格が保持されているか、また、多中心の金属間で、酸化に際して電荷の非局在化の判定ができる。π-スタックによるクラスター錯体の調製方法についても検討の余地があると考えている。配位子の骨格を伸張することは、配位子間の近接による相互作用を増大させるが同時に立体反発も増大させる。従って、空間に適合する被覆骨格を最適化する必要がある。ここで銅-配位子結合は溶液内で比較的容易に交換するため、2種の配位子を競合する条件とすると、異種の配位子の組み合わせで最安定な構造に収束することが期待できる。異種配位子によって構成する金属核が非等価になるため、電荷の局在性や発光特性が大きく異なる可能性がある。金属の連結部位や金属-配位子結合部分の電子状態ではなく、周囲のサポート環境でこうした特性が調節できること、またクラスター骨格の特定の部位のみ他の分子に連結できるということを実証できると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記のように、サンプルの分子構造の発展を中心に研究を進める。合成および同定、溶液中の反応の検討が主となるため、試薬、器具類、消耗品に使用する予定である。
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