本年度は銅を架橋してクラスターを構成する要素に、有機物であるアセチリドがあることに着目し、電極応答による新たな反応選択性の開発に成功した。 銅を触媒とする結合形成には、外部電子移動を必要とする酸化カップリングと電子移動を必要としないカップリングがある。またこれら両方の反応に共通する基質としてエチニル基が挙げられる。ここでエチニル基から分子骨格を伸長するときに、触媒種の銅に対する外部電子移動の有無によって、結合相手の化合物を切り替えることができる。1)酸素と窒素雰囲気の切り替えによるワンポット条件での結合形成切り替え 2)炭素電極固定化したエチニル基への二種類の触媒活性化が、設定電位値に対して相補的に起こることを実証した。 従来化学結合の選択性は、触媒種の分子構造が生成物の分子構造に構造的、あるいは電子的に反映されることで行われてきた。本研究ではこの選択性が分子→分子ではなく、電位の設定値→分子構造の選択性というリンクでできることを提唱している。すなわち、多種類の原料化合物を含む溶液から、電位設定によってある化学種を選んで特定の場所に固定することが可能になる。現時点でそれが実現可能であるという知見はほぼ揃えており、現在その最終段階として、すべての基質を含む溶液から電位設定条件で目的の化学種を選択的に電極に固定する実験を進めており、反応速度の調整などの検討によって良好なデータ得て発表することで、大きな反響が期待できる。 本成果と合わせ、当初の目的であった銅クラスター作成は、触媒種が電極に固定され、かつ活性点が出やすいという利点がある。銅電極の酸化電解による直接的な銅アセチリドクラスターの生成により、電極固定化触媒の形成を試みた。銅電極表面に生成する銅アセチリドの形成には2段階の過程があり、初期段階においては溶液合成で生成するアセチリドポリマーと異なる構造形成を行うデータが得られた。
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