研究課題/領域番号 |
23750059
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
田邊 真 東京工業大学, 資源化学研究所, 助教 (80376962)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | ポリシラン / ニッケル / π共役 / 高分子合成 / メタラサイクル / 脱水素カップリング重合 / 固体発光 / 電子・電気材料 |
研究概要 |
本研究の目的は、π共役平面を側鎖置換基にもつ環状ポリシランの合成、主鎖ポリシランのSi-Si結合のσ共役と側鎖平面置換基のスタック構造に由来するπ共役との相乗効果によって生じる光・電気化学特性を調査することである。 23年度の研究計画はπ平面骨格を有するケイ素モノマー(ジヒドロシラフルオレン)の合成と遷移金属錯体による重合反応であり、置換基が異なる数種類のケイ素モノマーを合成した。研究開始時におけるモノマー合成は予期せぬ副反応を伴ったが、厳密な窒素雰囲気下での実験条件ではこれが改善され、目的とするモノマーの単離に成功した。早期のモノマー合成方法の確立は、本研究が順調に進展していることを示唆している。当研究室で独自に開発したニッケル触媒による脱水素カップリング重合法を用いて、ポリシラン合成反応を検討した。得られた高分子量ポリマーは有機溶媒に対する溶解度が低く、現時点でポリシランの物性評価には至っていない。そこで、23年度には、溶解可能な低分子重合体の分子構造と光学的性質との関連性を調査した。二量体ジシランは結晶性が高く、単結晶構造解析法により分子構造を直接観察することができた。Si-Si結合とC=C結合が同一平面に位置するジシランは顕著に長波長シフトした発光が観測された。これは電子供与性Si-Si結合から電子受容性C=C結合への分子内電荷移動に基づく発光であった。ジシランの電荷移動型発光は分子構造の捻じれが関連しているという興味深い知見を得た。本研究では、環化ポリシラン重合の反応経路を明確にすることも課題の一つである。パラジウム錯体を用いたオリゴマー化では、環状5員環オリゴシラン錯体の合成とその構造決定に成功した。この5員環錯体は環化ポリシラン重合の中間構造として重要な役割を果たしていることが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
23年度では、1)π共役平面を側鎖置換基とする有機ケイ素モノマーの合成、2)ニッケル触媒によるポリシラン合成、3)低分子重合体の光学的性質の評価、4)環化重合反応に重要な役割をもつ中間生成物の単離を実施し、ほぼ計画通りの研究成果を得ることができた。 1)は本研究の重要な基盤項目であり、モノマー合成を重点的に検討した。その結果、高度な実験技術を要するが、高収率でモノマー合成の反応経路を確立した。これによって、項目2)-4)の研究成果を比較的容易に達成することができた。2)ニッケル触媒による重合反応が円滑に進行し、重合条件に応じて低分子から高分子までのポリマーを得た。3)合成・単離が容易なオリゴマーの物性評価をおこなった。ここで得た知見は、高分子量ポリマーの測定結果との比較により有効に活用することができる。4)重合活性を示すニッケル錯体はその中間構造の単離・同定が困難であるが、パラジウムを含む環状オリゴシラン錯体の構造決定に成功した。今後、この錯体を起点に反応性を精査し、反応機構の解明に向けたデータ収集をおこなう。今年度の計画案に達成できなかった点として、高分子量のポリシランは有機溶媒に対する溶解度が低く、分子量測定、ポリマーの構造解析等の基本的な同定に至っていない。全般的に、本研究はおおむね順調に進展しており、次年度では、重合条件の改善、物性評価、反応機構の考察等の本研究計画の達成を目標とする。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策は、23年度の研究成果を基に、1)重合反応の最適化により分子量制御が可能な重合反応の開発、特に、環状ポリシランの合成、2)合成したポリシランの溶解度の向上、具体的には、長鎖アルキル基又はアルコシ基をもつモノマー合成とその重合、の改善点を重点的におこなう。特に、1)は本研究の骨子であり、ポリシランの物性、機能に大きく影響するので、徹底的に検討する。具体的には、モノマーのSi-H結合の活性化を効果的におこなう高い電子供与能をもつリン配位子、嵩高さから金属周辺に空間をもつカルベン配位子を用いる。高収率で分子量の制御が可能な重合反応は興味深く、反応追跡実験、速度論的考察により重合反応を理解する。24年度の計画案で示したσ及びπ共役で拡張されたポリシランの物性評価もおこなう。具体的には、吸収・発光スペクトルによる波長の変化や分子軌道計算を用いて電子遷移エネルギーの見積をおこない、実験と理論を併せて高分子鎖中の電子の非局在化を考察する。合成ポリシランの化学的酸化反応をおこない、光学的特性、軌道計算との比較考察する。さらに、ヨウ素、ナトリウム等のドーピング操作をおこない、この電気伝導度の評価をおこなう。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度にあたる24年度では、23年度と同様に、高い溶解度を要する有機ケイ素モノマー合成に必要な有機薬品、重合触媒の原料であるパラジウム、ニッケル等の無機薬品、高活性の重合反応が期待されるカルベン配位子、二座リン配位子等の試薬購入を予定する。また、厳密な窒素雰囲気下での重合条件を要するので、シュレンク等の特殊なガラス器具を補充購入する。合成した有機ケイ素高分子の電気伝導度を測定するために、四端子電気抵抗計の購入をおこなう。24年度の研究費の多くを実験消耗品として使用する予定である。但し、合成したポリマー、環状中間体の同定、物性評価をおこなうための分光機器、単結晶構造解析装置、核磁気共鳴装置等は、当該研究所或いは当該研究室の既設の測定機器を使用する。
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