本研究の概要は、π共役平面を側鎖置換基にもつ有機ケイ素高分子(ポリシラン)の合成である。その意義は、平面側鎖基の重なり(πスタック共役)とポリシランのσ共役との二重共役構造に由来する前例のない光・電気化学特性を調査することである。23年度の研究成果では、モノマー合成を重点とし、低分子量オリゴシラン錯体の合成と構造決定をおこなった。最終年度の研究成果は、(1)後周期遷移金属錯体による高活性重合触媒の探索、(2)側鎖平面置換基をもつ可溶性新規ケイ素高分子の合成である。 成果(1)では、強い電子供与性リン配位子をもつニッケル錯体が高い重合活性と熱安定性を示すことが分かった。その結果、10員環程度の均一な分子量をもつ環状ポリシランを収率良く与えた。従来、錯体触媒による脱水素重合反応は線状と環状ポリマーの混合物を与えるが、本研究では、遷移金属触媒のリン配位子の配位環境又は重合中の反応条件に応じて、線状及び環状構造を選択的に作り分けできるケイ素高分子の合成法を見出し、その成果を論文発表した。 成果(2)では、ケイ素高分子の側鎖平面置換基の重なりが興味深い光学的性質を示すことが分かった。溶解度向上のためアルコシキ鎖の導入をおこない、その鎖長が異なる3種のモノマーを合成した。上記のニッケル触媒を用いて重合反応を検討し、分子量3000程度の線状ポリシランを得た。ケイ素モノマーは平面構造に由来して強い蛍光特性を示すが、その重合体は消光した。これは、側鎖平面置換基が隣接し、πスタック相互作用によるエネルギー移動が生じることが要因である。本研究では、概ね研究計画書に従い、有機ケイ素高分子の合成と物性評価、中間錯体の構造決定を実施した。今後の課題として、新しいケイ素高分子の合成法を目指して、ポリシランの分子量制御、ランダム又はブロック共重合体の合成を検討する。
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