生体やキラル高分子などの複雑系におけるキラル因子の機能についての情報を得るための、新しいタイプのキラルイメージングシステムの開発を行った。キラルな分子環境におかれたときに強い円偏光発光を示す発光性金属錯体を発光プローブとして用い、円偏光を顕微分光システムにてイメージング検出することで、キラル因子の存在と空間分布を同時に調べた。この発光分光と組み合わせたキラルセンサーは、高い分解能とコントラストで空間分解ができるという点で吸収法より格段に優れている。 初年度に続き、発光プローブの開発と評価を行った。いくつかの希土類錯体や金(I)錯体などの遷移金属錯体を検討した結果、アルギニンやヒスチジンといった特定のアミノ酸を高感度で選択的に検知する新しい発光プローブとして、フェナントロリン誘導体が配意したユウロピウムの錯体を見出した。検出メカニズムを詳しく検討した結果、プローブ分子が2分子以上のアミノ酸分子と会合することで強い円偏光信号を誘起することが分かった。複数分子の会合により信号が出ることから、一定濃度(10-2mol/dm3)を境に極めて強いコントラストで円偏光発光信号が変化することを見出した。配位子によって大きくセンシング能力が変化することから、配位子の化学修飾により、任意のセンシング対象の選択および検出能力の向上が期待できる。 イメージ検出のため、顕微円偏光発光分光システムの試料ステージの自動化装置ならびに制御プログラムを作成し、この発光プローブを用いた円偏光発光のイメージング検出を試みた。いくつかの不均一な試料を試した結果、高分子フィルム中に発光プローブ分子とアミノ酸を分散させた資料中の特定の微小空間中に局在化したアミノ酸集合体から放出された円偏光発光を検出し、これをイメージング計測することに成功した。
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