研究課題/領域番号 |
23750067
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研究機関 | 神戸市立工業高等専門学校 |
研究代表者 |
福本 晃造 神戸市立工業高等専門学校, 一般科, 講師 (80549816)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 触媒 / 鉄 / ケイ素 |
研究概要 |
C-O, C-S単結合と比べ、C=O, C=S二重結合は2倍以上強固であり、通常は切断困難である。本研究課題では、比較的合成容易な触媒を用いた選択的、触媒的結合切断反応開発を目指している。まずは触媒の設計を行った。過去の文献調査や、構造計算などから、シクロペンタジエニル基とメチル基、2つのカルボニル基を有するピアノイス型鉄錯体(C5H5Fe(CO)2(CH3))と、ヒドロシラン(Et3SiH)を共存させる反応条件を見出し、検討対象とした。ヒドロシラン存在下での鉄錯体の挙動を調べるため、比較的活性容易なS-H単結合を有するチオール(RSH)を添加後、80度加熱を行った。反応終了後の溶液を調べたところ、水素ガスとシリルチオエーテル(RS-SiEt3)の生成が確認でき、鉄触媒を用いた初めての脱水素縮合反応を見出した。ヒドロシランを共存させることで、設計したピアノイス型鉄錯体が触媒として作用できることが明らかとなったため、次に多重結合を有する基質との反応を検討した。ヒドロシランと鉄錯体を含む溶液に、シアナート(RO-CN)を添加し、水銀ランプを用いて光照射を行ったところ、O-CN単結合の切断反応が観察された。シアナートのO-CN結合は二重結合性を帯びているため、通常の単結合よりも強固であり、触媒を用いた結合切断反応は、本報告が初めての例である。この反応系では、鉄錯体は触媒としての活性を示さなかったが、類似のモリブデン錯体を用いることで触媒反応の開発に成功した。C=S二重結合を有するチオアミド(Me2NCHS)に対しても触媒反応を検討した。ヒドロシラン、鉄錯体、チオアミドを含む溶液に、水銀ランプを用いて光照射を行ったところ、C=S結合切断反応が触媒的に進行していることが明らかとなった。これにより、目標としていた選択的、触媒的C=S結合切断反応が達成された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、平成23年度から2年間研究を予定しており、金属触媒を用いたC=O, C=S結合の触媒的切断反応開発を目指している。当初計画では、初年度(平成23年度)に、ターゲットであるC=O, C=S結合切断を達成するための触媒設計を行い、C=O, C=S結合を有するアミド、チオアミドに対する活性評価を目指していた。これまでに達成した成果としては、(1)ヒドロシラン(Et3SiH)とピアノイス型鉄錯体(C5H5Fe(CO)2(CH3))を共存させる触媒反応条件を見出し、(2)チオールとヒドロシランの触媒的脱水素縮合反応や、(3)シアナートの触媒的O-CN結合切断反応、(4)チオアミドの触媒的C=S結合切断反応を新たに見出した。いずれの反応についても、学術的に非常に興味深い研究であり、すでに国内、海外の学会発表に加え、欧米紙への論文発表も行った。特に(4)の研究については、当初から目標としていた反応の開発であり、おおむね研究計画通りに進展している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では、現在のところ、おおむね順調に進展しており、当初計画に従って研究活動を進める予定である。平成23年度目標は、触媒の設計、およびアミド、チオアミドのC=O, C=S結合切断反応開発であった。触媒の設計とチオアミドのC=S結合切断反応開発の大部分は達成できたが、アミドのC=O結合切断反応に対しては、わずかに切断反応は観測されるものの、反応活性が非常に低い状態が続いており、新たな触媒の設計が必要だと思われる。その方策としては、触媒として利用する鉄錯体について、類似のモリブデン錯体やマンガン錯体などを用いた検討や、ビピリジン類やターピリジン類の多座配位子を導入した錯体についても検討を行う。また、当初計画通り、平成24年度にはイソシアナート、イソチオシアナートのC=O, C=S結合切断反応についても検討を行う。すでに見出したヒドロシラン、鉄錯体を用いる触媒条件による反応検討に加え、より効率的、高反応活性な触媒系の開発も引き続き行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費(450,000円):本研究活動を遂行するのにあたり、さまざまな種類の試薬を要する。また、多くの実験は窒素雰囲気下で実施するため、特殊なガラス器具を要する。このため計上した。旅費(600,000円):錯体化学第62回討論会、日本化学会第93春季年会の国内学会参加2件、ICPC2012(オランダ)、ICCC2012(スペイン)の国際会議参加2件を予定している。このため計上した。謝金(50,000円):本校に設置されていない分析装置測定や文献調査に対する謝金として計上している。
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