昨年度の研究成果として、ヒドロシラン(Et3SiH)存在下、触媒量のピアノイス型鉄錯体CpFe(CO)2Meを用いることで、3級チオアミドのC=S結合切断反応が進行し、アミンが得られることを報告した。チオアミドとして2級化合物を用いた場合、イミンが選択的に生成する反応を見出したため、本年度では、その詳細について調査、研究を行った。例えば、PhNHC(S)Phと鉄触媒を用いた反応では、共存させるヒドロシランとしてMePh2SiHを用いるとイミン(PhN=CPh)のみが選択的に得られる一方、ケイ素上の1つのPhをMeに置き換えたMe2PhSiHを用いると、アミン(PhNHCH2Ph)のみが得られることを見出している。異なる反応性が現れる原因については、提案した反応機構を詳細に検討することで、答えを導いている。提案した反応機構の確実性を上げるため、反応中間体であるFischer型カルベン錯体の単離も試みており、単結晶X線構造解析にも成功している。 このように、本研究課題ではカルベン錯体を反応中間体とする、C=S結合切断反応を伴った分子変換反応を報告してきた。そこで、次に、分子内にC=S結合を有するチオ尿素(RNHC(S)NHR)を研究対象化合物とすることにした。ピアノイス型鉄錯体とヒドロシラン(Et3SiH)を含んだテトラヒドロシラン溶液に、チオ尿素を添加し、60℃加熱を行ったところ、脱硫反応に加え、脱水素反応も進行し、カルボジイミド(RN=C=NR)が生成することを確認した。この反応についても、カルベン錯体を経由する反応機構を提案している。 以上の課題に関連した研究として、ヒドロゲルマンとピアノイス型鉄錯体を用いたアミドのC=O結合切断反応も報告を行っている。この反応では、アミンの生成に加え、直鎖型や環状ゲルモキサンを選択的に合成することに成功している。
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