本研究の目的は、103 番元素ローレンシウム(Lr)の還元電位を測定し、重元素に特徴的な相対論効果が7p 軌道と6d 軌道のエネルギー的安定性にどのような影響を与えているか、実験的に検証することである。Lrはアクチノイド系列の最後の元素であり、同族元素のルテチウムと同様に水溶液中では3価状態しか取らないと思われるが、興味深い事にLrは水溶液中で1価へ還元されると相対論的理論計算によって予測されている。これは、重元素に特徴的な相対論効果によって7p軌道が安定化される一方で6d軌道は不安定化されるため、Lr原子の基底状態が変化するためと考えられている。そのため、Lrは超重元素でしか観測しえない特有の性質をもつ可能性があり、非常に興味深い。 昨年度、申請者がこれまでに開発したシングルアトムレベルでの電気化学的アプローチを基に、迅速かつ繰り返し実験が可能な電気化学分離装置を開発した。Lrの実験は加速器を用いた実験が必要となるため、本年度はその電解還元反応に向け、模擬物質を用いたテスト実験を行った。模擬物質としてMoを用い、そのキャリアフリーレベルでの還元挙動を確認した。その結果、0.1M塩酸水溶液中において、約0V以下の電圧領域でMoをキャリアフリーレベルで電解還元する事にはじめて成功した。また、マクロ量のMoを用いたサイクリックボルタンメトリー測定ならびに紫外可視吸光測定を行い、その反応がMo(VI)からMo(V)への一電子還元反応であることを明らかにした。 今後、原子力機構のタンデム加速器施設において、迅速電気化学分離装置を用いたオンラインLr実験を行う予定である。
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